Board World

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Board World

今度はアスカが腕を掴んだ。あたりはさっきまでいた広場ではなくなっている。ただ同じなのはさっきまでいた地面だけ。木が生い茂っていた場所には膝丈くらいの緑の小山が連なって囲まれている。その向こう側は、シャボン玉のように複雑に紫っぽい色を反射している。一箇所だけ小山が開かれた所から遠くに見えるのは、大きな煙突のような建物。近くにヒロはいないみたいだ。  パッと空中に赤い花が咲いた。 「えぇ、なに……?」 アスカが腕をつかむ力が強くなる。僕は目の前の現象から目を離さなかった。花が弾けたかと思うと舞い散る花びらの中からスーツ姿の仮面をつけた男が現れた。彼はそっと地面に足を下ろし、その仮面越しにこっちをジッと見ている。ジリと後退りしてしまう。 「こんにちわ〜お二人さん。ようこそボードワールドへ!」 おもいの外明るい声と高いテンションに出迎えられて呆気にとられた。そんな僕らに仮面の男は軽く手を振った。 「ん? どうしたお二人さん固まっちゃって〜。せっかく来たんだ。存分に楽しんでいってくれ」 「ここは、どこなの?」 固まっていたアスカが動き出した。 「ここはボードゲームの中の世界さ。君たちはこの世界に来る前にそのボードゲームを見ているはずだよ」 あの広場にあったボードゲームの世界に入り込んでしまったということだろうか。信じがたいけれど状況がそれを否応無く納得させる。 「……あの、ヒロはどこにいるの? もう一人太ってる子がいたはずなんだけど」 「ああ彼か」 仮面の男は、体をひねり、遠くにある丸い煙突型の建物を指差した。 「彼ならあそこにいるよ」 「どうしてヒロだけ」 仮面の男はフフッと軽く笑った。口元に人差し指を当て、小さな声で答えた。 「彼は人質さ」 そして胸を張って大きな声を出した。 「さあ! 君たちにはこれからこのボードゲームを進めて最後に立ちはだかるボスと戦ってもらうよ!」 「え、なに。どういうこと? 戦う?」 「そう、彼が持っているそのダイス」 僕がボードゲームから拾ってずっと握りしめていたダイスを指差した。 「それを振ってこの先に進むんだ。そして止まったマスで様々なイベントが起こる。君たちは装備を揃えてラスボスと戦う準備をしながら進むってわけさ!」 「そのラスボスってのに勝ったら?」 アスカは順応が早い、さっきから僕は頭の理解が追いつかなくてただ聞いているだけになっている。空からモニターが降りてきて、仮面の男の隣に浮いた。ヒロの姿が映し出される。 「ヒロ君を解放し、君たちを元の世界へ返す」 ヒロはなにもない部屋でただポツンと、呆然と座り込んでいた。 「ヒロ!」 「こっちの声は聞こえないよ」 モニターの画面が消え、モニターは土の中へと消えていった。 「僕たちが負けたら?」 やっとのことで出せた言葉はあまりに消極的な言葉だった。 「ヒロ君はずっと幽閉されたまま。君たちには、後ろに立っている兵隊の跡継ぎになってもらう」 後ろにはピクリとも動かない兵隊が二人いた。全く生気を感じさせない彼らは人形みたいだ。 「かつては二人も君たちと同じように……ま、勝てば良いのさ! では、幸運を祈る」 そう言い残して、仮面の男は花びらとともにパッと消えた。ただ矢継ぎ早の説明がなされて、状況の理解に頭が追いつかない。ただ立ち尽くすだけの僕にアスカが声をかけた。 「ダイスを振らなきゃ」 そうだ、とにかくこの状況でできるのはそれしかない。
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