人質

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人質

光に包まれた僕は必死にユウトの腕にしがみついた。目を閉じていても、まぶたの裏が赤く光っている。ユウト〜!何これー!? ユウトの腕が突然冷たく、固くなったと思ったらあたりの光も消えた。ユウトの腕を握っていたはずの僕の手は、金属バットを握っていた。 「えっ……」 力の抜けた手から滑り落ちた金属バットは、大きな音を立てて、床に落ちた。音が反響して聞こえる。ここは建物の中なんだ。あたりには何もなく、ただ壁に囲まれた小さな部屋みたいだ。 「ユウト……アスカ……」 狭い部屋。いないって分かってるけど。でも、心細くて声を出さずにいられない。 「ねぇ、二人ともどこに隠れてるの? 出てきてよ!」 身体中が熱くなって、涙が滲んでくる。金属バットを拾って、呼吸を整える。思い切り壁にバットをぶつけてみた。ビクともしない壁に跳ね返されて、尻餅をついた。どうして閉じ込められているんだろう僕は。お尻がだんだん冷えてくる。 理解できない状況になす術もないままただ座っていると、目の前に赤い花が咲いた。それはドンドン大きくなって、人間くらいのサイズになると、クルッと回って仮面を被ったスーツの男に変身した。 「やあこんにちは、ヒロくん」 明るい声でそう言った仮面の男がこっちを見ている。 「え……? 誰? どうして僕を知ってるの?」 仮面の男は少し焦ったみたいに、体を仰け反らした。 「あ、えぇっとぉ……。僕はゲームマスターだから、なんでも知っているのさ!」 「ゲームマスター?」 「そう! 君たちは今、ボードゲームの世界、名付けてボードワールドに来ているんだ!」 「そのまんまだ」 「まあそこは気にしなくていい、名前なんてなんでもいいんだ。君は今きっと、ユウトとアスカちゃんの心配をしていることだろう」 「そうだよ! 二人はどこ!?」 「二人は今まさに、ボードゲームを自らコマとなり進んでいるところさ」 壁一面に二人の姿が映し出された。こことは明らかに違った雰囲気の中に立っている二人はモニターを見ている。 「ユウト! アスカ!」 壁に向かって叫んだけど、こっちの声は聞こえてないみたいだ。向こうの声も聞こえない。二人の前に光の玉が現れた。 「ん〜ユウトは堅実だな。盾を選んだか」 仮面の男もモニターを見て何か言ってる。 「なんで僕だけここにいるの?」 「君には人質になってもらったんだ。ゴールした時に何かないと、つまらないだろ?」 壁の映像が消えた。 「っとまあ、そうは言ってもこんな小さな部屋でただ彼らの様子を見ているのもつまらないだろう。僕とゲームをしないかい?」 ゲーム! 「やるやる! 何やるの? シューティング? 格闘?RPG?」 チッチッチと指を振ると、床に落ちている金属バットを指差した。 「やきゅう」 「えぇーーーー。体動かさないやつにしようよぉ〜。そもそも部屋の中で野球ってムリだよ」 「そうだね、ここではムリだ」 指をパチッと鳴らした。 壁が向こうに倒れていき、天井と壁の隙間から光が差してきた。天井もどんどん高くなって、僕らのいた部屋はハリボテの箱みたいに開いて、僕はスタジアムのバッターボックスにしゃがみ込んでいた。 「ここなら文句ないだろう」 自慢げに言う仮面の男の後ろから、同じような少し小さめの仮面の男たちが八人現れた。スタジアムの席にはたくさんの人形が座っている。けれどどれも動いていて、まるで生きているみたいだ。人形たちの歓声が僕らを包む。 「君が勝ったら君の大好きな、お菓子もあげちゃう!」 「こ……ここは……?」 「どうする? やるかい?」 僕のうしろには屈強な野球人形が現れた。顔が熱血そのものだ。眉毛が濃い。人形が手を差し伸べてきた。 「いこう! 甲子園!」 断ってもまたあの暗い部屋に戻るだけなのかな。 「わかったよ。甲子園は行かないけど、このチームならなんか勝てそうだし」 人形の手を握って、僕は立ち上がった。 「OK! それじゃ、仮面チーム対ヒロチーム。ゲームスタートだ!」
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