ゾンビランド

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ゾンビランド

ダイスの目は四だ。青白い光に従ってマスを進んでいく。止まったマスにはゾンビの絵が描かれていた。嫌な予感しかしない。 『ゲーム! ゾンビランドを駆け抜けろ! これは、ゾンビを倒しながらゾンビランドから逃げ出すゲームです。ゾンビを倒すと一体につき一コイン。赤ゾンビは十コインを貰えます。後で良い物と交換できるので、なるべくたくさん倒してくださいね』 「ゾンビと、戦うの……?」 アスカは強がりだけど、ホラーが苦手だ。見るからに嫌そうな顔をしている。 『魔法は使えませんので、こちらの銃をお使いください』 アスカの前に黒いハンドガンが現れた。 「これ、ホンモノ?」 手にとって眺めている。 『ゾンビにのみ有効です』 「え? 僕の分は?」 『盾は使用できます』 なんてこった。本当にアスカ頼みだ。むすっとした顔でこっちを見てくる。 「だから言ったのに」  僕らの立っている地面が少し揺れたかと思うと、マスごと一気に急降下した。地面の中に潜っていく。エスカレーターというよりそれは絶叫マシンの勢い。僕は体が硬直して声も出せなかった。アスカの甲高い叫び声が耳をつんざく。だんだんと勢いが落ちて、体が重くなる。ズシンと降下が止まった。あたりは真っ暗で、何も見えない。 「ユウト、いる?」 アスカの声だけが聞こえる。 「いるよ」 なるべく声が震えないように気をつけた。 ぼっと周囲の松明に火が灯った。それでもまだ暗い。さっきまでの空間とは全く雰囲気が違う。カビ臭い匂いもする。進路はたった一つ。坑道の入り口みたいなものがある。先は……見えない。 「すごい、雰囲気あるね」 壁に挿してある松明を一つ取って、中に入った。松明の明かりで何とか目の前は照らせるけれど、二メートル先は見えない。僕とアスカの足音が響く。 ヒタヒタという何者かの足音が前方から聞こえてきた。一人じゃない。 「アスカ、来るよ」 アスカは返事をしない代わりにしっかりと銃を握りしめ、僕の後ろにぴったり付いてくる。緊張した息遣いが耳元で聞こえる。なんだかこっちまで緊張してくる。盾を肩から外し、左手に構えた。準備は万端。地鳴りのような声のような音が周囲にこだまする。 「きた!」 松明の明かりに照らされ動く影をが二つ。 「アスカ撃って撃って!」 銃を持つ手は震え、狙いが定まっていない。徐々に近づいてくる影が勢いを増してきた。松明の明かりでしっかりと目視できるほど接近してきたゾンビは、腐った死体みたいだ。また、ゾンビが声をあげた。呼応するように仲間のゾンビも声を上げる。まだ奥には何体もいるみたいだ。 「もう無理もう無理もう無理」 「ええ!」 アスカが戦闘を放棄して頭を抱えてしゃがみこんでしまった。自分でやるしかない。盾を捨て、アスカの銃を取って飛びかかってきたゾンビに押し付け、そのまま引き金を引いた。 ドン 一発の銃声が木霊し、襲いかかってきたゾンビは身体中から光を放ちパラパラと消えていった。初めて引き金を引いたことに感動してる暇もなく次がくる。ゲームセンターのゾンビゲームのように撃ちまくった。次々と光を放ち消えていく。七体を倒した時、もう確実にヘッドショットが撃てるようになっていた。関係ないけど。 あたりは静まり、ゾンビの気配は消えた。なかなかの爽快感。 「すごい……」 アスカはしゃがんだまま呟いた。珍しくアスカに褒められた……気がする。なんだか変な感じ。 「早く、進もう」 立ち上がったアスカに銃を返し、盾を拾って先に進んだ。  曲がり角になる。こういうところは十分に注意しないといけない。映画で見たように、ゆっくりと壁に背をつけて曲がり角まで進む。  そっと松明だけ先に出してみるが、反応なし。右手にアスカの手が触れた。それはそのまま、僕の手を握った。冷たくて、細い手の感触。胸の鼓動が早くなる。このドキドキが、手を通じて伝わってしまわないか心配になってくる。マイムマイムの練習以来、女子と手なんか繋いでない。顔を出して周囲を確認してみる。 「大丈夫、ゾンビはいないみたい」 振り返り、松明を引き寄せると大きな目と目があった。まぶたが千切れて、濁った黒目がしっかりと僕を見ている。アスカ……じゃない。 「でだぁああああ!!」 思わず飛び出た僕自身初めて聞く自分の叫び声にかぶさるように、ゾンビも腹の底、地獄の底から声を出して僕の手をグンと引いた。バランスを崩して松明を落とした。メラメラと燃え続ける松明にアスカが照らされた。アスカはまた腰を抜かして座り込んでいる。ゾンビがアスカに気づき、注意がアスカへ向いた。一瞬緩んだ手を思い切り蹴り飛ばす。鈍いうめき声と共に注意がまたこっちに向いた。よく見たらこいつ赤ゾンビだ。目の色も、皮膚の色もくすんだ赤。盾を構えて赤ゾンビに突っ込んだ。壁と盾に挟まれた赤ゾンビは身動きを取れない。 「アスカ! 撃つんだ!」 「言われなくても……!」 銃を構える手が震えている。それでも今度はしっかりと狙っている。 ドン 赤ゾンビの体が光だし、消えた。アスカは銃を持ったまま固まっている。目が潤んでいるのが、この明るさでもわかる。 「何泣いてんだよ」 「な……泣いてないし」 目を合わせずそっぽを向かれた。 「いこう」 差し出した手を握って、立ち上がった。アスカの手は柔らかくて暖かい。ゾンビなんかとは大違いだ。ぐっとアスカの方へ引っ張られた僕の手に暖かい水が垂れた。 「やっぱ泣いてんじゃん」 アスカの頬に涙の跡が光り照らされている。口はむすっとしながらも、目はもう強がっていなかった。 「怖……かった……」 僕の腕に額を寄せ、泣き出した。んなっ……恐怖とは違う感情で、胸が高鳴る。さっきから心臓がずっとバクバクで休みなしだ。女子はずるいよ。さっきまで強がってたくせにさ。 「大丈夫だよ、もうこの辺にはいなそうだから」 肩を優しくさすると、少し落ち着いた様子で頷いた。
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