Board World

4回裏

　試合が始まってどれくらい経っただろう。野球の試合ってこんなに長いの？？　コツコツ戦法の仮面チームに四回裏までに二点も取られた。僕のチームはまだ一点。トップバッターがいきなりホームラン出してゲットした一点だけ。
「ああ〜もう疲れたぁ。ピッチャー交代！」
「え〜、もう終わりかい？　せめて僕の回までは頑張ってほしいな」
仮面の男がバッターボックスで抗議してくる。
「もぉあ〜これでラストね」
これだけ投げたらベンチで休もう。振りかぶって、思い切りミットめがけて投げる。
キン！
やばい！　
ボールは高々と飛んでいき、僕の頭上を越えると、セカンドを越え、センターがキャッチした。
「あぶなぁ〜」
「惜しかったー。攻守交代だ」
守備についていた熱血人形たちが一斉にベンチに戻り始める。
「よっしゃぁ！　よくやったヒロ！　さあみんなかっ飛ばしていくぞ！」
背番号６のキャプテンみたいなやつが声をかける。そもそもこいつのせいなんだ。さっきからみんな三振して帰ってくる。それは全部こいつが全員にホームランかっ飛ばしてこいって指示を出すから。仮面の男本体は送球が全然上手くないからバントをすれば絶対に進めるのに。
仮面の男がマウンドに近寄ってきた。
「何か、思うところがあるようだね」
「別にぃ」
「言わなきゃ伝わらないよ」
僕みたいなのが言ったてどうせ……。ベンチに戻ると６番が叫んでいた。
「さあかっ飛ばしてこい！　全員ホームランで逆転だぁ！」
バシッと背中を叩かれた３番がよろけた。僕の番はきっと回ってこない。またすぐに守備だ。グローブをつけたまま手前のベンチに座った。３番が早速空振りしている。
「行けるぞ行けるぞ！　タイミング合ってきたー」
また空振り。もうダメだこのチーム。僕は帽子を顔に乗せて、少し眠ることにした。
「惜しかったな〜次また頑張れ！」
３番は三振したみたいだ。
「よっしゃぁ仇打ってくれ〜い！　頼むぞ〜」
張り切った６番の声がうるさい。
「ん？　おいヒロ！　何寝てるんだ、応援しないと！」
ああうるさい。帽子をとって６番を睨んだ。
「それならさ、応援したくなるような試合してよね！」
ぽかんとした顔で見つめてくる６番。
「応援したくない試合ってなんだ？」
「勝つ気がない試合だよ。さっきから馬鹿の一つ覚えみたいにバットを全力で振り回すだけでさ」
「それ以外に、何かあるのか？」
「相手チーム見てればわかるでしょ！　どう見てもゴロの対応が下手くそだ！　チャンスがきたらバントで攻めれば一点くらい取れるよ」
「バント？」
キン！　
打球がレフトのミットに当たり、落ちる。すぐに拾って送球するが、ランナーは三塁に出た。６番がヒロを見つめる。
「そのバントってのをするのは、今みたいな時か？」
「まあ、今やるとスクイズだけど、もしかしてバント知らないの？」
真剣な眼差しで頷く６番。まさか、こんな野球ばかみたいなやつがバントを知らないとは。仮面の男はそれを知っててあんなことを？
　僕は６番含め、全員にバントのやり方を教えた。そこからはバントも含めた戦術に変わり、この回でなんとか一点をもぎ取った。僕の番は回ってこなかったけど。