【 第1章 親になる!? 】

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【 第1章 親になる!? 】

 大の所に、青年が訪ねて来た。  その青年の横を見ると、優に瓜二つの女の子と、全体は青年に似ているが顔の所々のパーツが優に似ている男の子がいた。しかも男の子の頭には、本来、人間には絶対にない、犬の耳のようなものが付いていた。  「すみませんが『広川 優(ひろかわ ゆう)に会いたいのですが」  人とあまり話した事がないのか、ビクビクしながら大に言う。  「うん。分かったけど、まずは君の名前を聞いてもいい?」  いつもの大ならば、もっと元気に話して、相手の緊張を解きながら話しやすいようにするのに、今は話している青年よりも、その横にいる子供たちの方が気になって言葉数が増えないでいた。  【どう見ても片方は優だよなあ。もう片方だって優に似てる。頭にはなあ…】  大が考えていると、青年は自分の名前を伝えてきた。  「名前は『NO,1(ナンバーイチ)と翔(しょう)』。それしか分からない。こっちの2人は名前はない。番号ならある」  そこまで話を聞いて【やっぱり】と大は思った。  「あの研究所からどうやってここまで来た?あの騒ぎの中、今までどうしてた?」  大に質問されると、翔は黙ってしまった。  「う~ん…。優は、お前らを見たら分かるのか?」  「うん。俺らは一緒にいたから」  「名前を言えば分かるんだな?」  翔の目をジッと見ながら聞いてみる。  「うん」  「少し待ってろ」  そう言うと、自分の前にある電話機から内線で、優たちのいる副院長室へ電話を掛けた。  「あっ、大?お疲れさまです。どうしたの?」  大は滅多に内線で電話は掛けてこない。自分のスマホから掛けてくる。そのせいか、電話に出た優が心配そうに、そう話した。  「あのさあ、お前、翔って知ってっか?あと、お前と同じ顔の女の子と翔って奴に似た男の子」  大の話の内容に、優の言葉が詰まる。  「そ、その子たちがどうしたの?何で大が知ってるの?」  胸がドキドキしながら聞いてみる。その横から有李斗が声を掛けた。  「どうした?何かあったのか?電話、大だろ?」  自分に声が掛けられ、受話器を握りしめたまま有李斗の顔を見た。そして、突然の話と頭と気持ちが追い付かず、持っていた受話器を何も言わないまま有李斗に渡した。  「ん?どうした?」  優の受話器を受け取り、大と話し始める。  「何があったんだ?」  「おお、有李斗か。あのなあ、今こっちに優を訪ねて来た奴がいてな。1人は優より少し歳が上っぽい青年。あと、幼稚園くらいの子供が2人。子供の1人は優と瓜二つの女の子で、もう1人は青年と似てる男の子だ。ただ、その男の子、優にも似てんだよ。今まで、どうしていたか分かんねえけど、ここに訪ねて来た。すぐにそっちへ連れて行こうかとも思ったが、話が見えないから、お前らがこっちに来てくれるか?」  「そうか…。ちょっと待ってくれるか?こっちから掛け直す。悪いな」  「ああ。急がなくていい。少し、優と話をしてからでいいよ」  「申し訳ないが頼む」  訪ねて来た者たちの事は、しばらく大に頼んだ。  【やはり聞いていた事が当たっていたな】  有李斗は向こうの研究所で、ある話を聞かされていた。  優の方を見ると、下を向き一点を見つめながら固まっていた。一呼吸してから優に言葉を掛ける。  「優?大丈夫か?」  優の頭を軽く撫ででから、落ち着くように抱きしめた。  何分か経った頃、優がゆっくり口を開いた。  「翔は、僕より少し大きい子で、お兄ちゃんみたいな人だった。僕に似た女の子は僕のクローン。僕だけで造られた子。もう1人は、僕と翔とのクローン。僕と翔から造られた子。女の子は僕だけからの子だから完全に僕なの。ただ女の子ってだけ。男の子は翔も入ってるから、鳥とオオカミ。翔はオオカミなんだ。でも、その子は翔のが強く出たから、顔は、ほとんど翔に似てる…。でも、どうしてここに来たんだろう。今まで何処にいたんだろう。それに…。それに他のみんなはどうしてるんだろう。――僕ね、ずっと気になってたの。自分だけここで普通に暮らしてて、他の子や研究所の人たちはどうしてるのかなって。でもね、それを考えると怖くて頭がギュッとなるの。だから考えないようにしてた。お父さんも警察の病院とかにいるでしょ?僕だけが普通に暮らしてる。どうしよう。翔は何でここに来たのかなあ。どうして僕がここにいるって知ってるのかなあ。会わなきゃいけないんだけど…。有李斗、僕、怖いよ。どうしよう」  途中からは、有李斗にしがみ付き、泣きながら話していた。優の話を聞いて有李斗は思った。  【確かにそうだよな。騒ぎが落ち着いて、ふとした時、自分に関わっていた者たちはどうしているのか気になって当然だ。俺は、それに気づいてやれなかた】  優の背中を擦りながら言う。  「お前の不安を気づいてやれなくてごめんな。でも、お前は1人じゃない。俺がいる。そしてみんなも。問題が起きれば、みんなで考えればいいだけの事だ。心配するな。俺がついている。大丈夫だ。な?」  一度自分から優の身体を離し、顔を見ながら話をした。そして話し終わると、おでこに軽いキスをして、再度抱きしめた。  「うん。ごめんなさい」  「謝るな。――さて、大に連絡をしてから下へ行こうか」  「うん」  大に今から行く事を伝え、診察室の方へと向かった。  エレベーターの中でも優は一言も話さず難しい顔をしていた。  大の診察室へ着き、ドアを開ける。  「おお、来たか。こっちへ来てくれ。こいつらだ」  診察室の奥の方へと行く。  そこにいたのは3人。有李斗の目に最初に入ったのは、優そっくりな小さな女の子だった。  【優の小さい版だな】  有李斗は、自分では気づいていないが、柔らかい笑顔でゆっくり近づいて行った。  「有李斗?」  有李斗の行動に優が驚いた。もちろん、それを見ていた大も、有李斗の意外な行動に目を見張った。  「優の子供のようだ。まさかだとは思うが、お前の子では…ないよな…?」  決して人には見せない、不安な眼差しで優を見た。  「う~ん。僕の歳で、このくらいの子がいたらおかしいよね?でも僕の子になるのかなあ…。さっきも説明した通り、クローンなんだけど…」  「クローンかあ。本当に、そんな実験やっていたんだな。しかし、本当に優そのものだ」  優に似た子から、有李斗は目が離せないでいた。  「有李斗さ、その話はあとにしよーぜ。お前の優が全ては分かったからさ(笑)」  「あ、ああ…」  大に注意をされ、有李斗は頭を切り替えた。  「翔、どうしてここに来たの?どうして僕がここにいるって分かったの?」  優が翔に問うが、何も答えず下を向いたまま黙っている。  「翔、黙ってたら分かんない」  翔の傍まで来て、姿勢を低くして下から覗き込むように顔を見た。  「翔?」  再度、声を掛ける。すると、ゆっくりと話し出した。  「あの日、広川所長が捕まった時、裏から逃げた。あの時は、こいつらの担当だったんだ。だから2人を連れて逃げた。近くの色んな森の中を移動しながら隠れてた。でも、俺はいいが、こいつらが、このままじゃダメだと思った。手元に持っていたサプリも残り少なかったし。まあ、俺たちは動物の能力も少しあるから、そこそこ食べてはこれた。俺とこいつはオオカミが入ってるしな。でもやっぱり、このままずっとってわけにはいかない。半年くらい経って研究所へ戻ったら、もう誰もいなかった。それで、そのあとは研究所にいた。ゼロの居場所は所長の机の中にメモがあって、それを見て、ここを調べて来たんだ。――それと、こいつらの事、ゼロが見てくれないか?こいつらがいたら、俺は1人で生きていけない。なあ頼むよ、ゼロ。2人とも、お前のクローンなんだし。研究所でもお前に懐いてたじゃないか。なあ?頼むよ」  もう本当に、ここにしか頼る所がないと、必死な表情で優にお願いをしていた。優は急な話に、どう判断していいか分からず、翔の顔をジッと見るしかなかった。  「うん。お前の言いたい事は分かった。とりあえずさあ、ここでできる話じゃねえじゃん?お前んちで話そうぜ。それに、こんな幼い子、何か食わせるだの飲ませるだのしないとさ。な?優」  大が優たちの部屋へ移動するよう話した。
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