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02 ラブレター未満
家の郵便受けを毎日確認するようになったのは、青森に住む友達と文通をし始めたからだ。
きっかけは今どきっぽくTwitterで知り合ったからだけれども、手紙という古風な形で連絡を取り合うようになったのは正直夜中のテンションと悪ノリからだった。
私と彼はお互い絵を描くのが好きだった。私はコピックで、彼は色鉛筆で、それぞれ絵を描いてTwitterとpixivに載せていたことから繋がった。
彼の絵は柔らかい女の子の絵が多くて、肌に青や緑を混ぜた芸術的な絵を描く。私のコミカルなタッチの絵とはかなり違うけれど、そこが彼の尊敬できる才能で、彼も私の絵を可愛いと言ってくれる。
郵便受けに水色の封筒が入っていた。私の胸がはずむ。さっと取り出すと早足で自室に入り、焦る手で破かないように開封した。
〈お元気ですか? こちらは初雪が積もってすっかり庭の芝が隠れてしまいました。もうすぐ雪かきをする日々がやってくるのだと思うと気が滅入りますが、雪景色の美しさは嫌いではありません。
最近学校では文化祭がありました。俺の絵も飾られて、たくさんの人に見てもらえて嬉しかったです。またTwitterに載せるのでよかったら見てください。……〉
便箋二枚分きっちりの手紙。文字をなぞると温かいものが弾けるようで頬がピリピリした。そして添えられたポストカードには色鉛筆で描かれた絵。ハロウィンを過ぎた寂しさを表すようなシンプルなモチーフの女の子の絵だった。
――この女の子が私なら、
私は机のレターボックスから一ヶ月前の手紙――一番くたびれている封筒を取り出す。その封筒も今日と同じ水色だった。
中には今日と同じように便箋と共にポストカードが入っている。でも違うのは、いつもは女の子の絵なのに、その絵だけは男の子の絵だった。
――この男の子はきっと彼なんだ。
彼の顔など見たことがないのに、私はこの男の子を彼だと盲信していた。凛々しい鼻筋に柔らかい瞳。少し長い髪はまつげに絡まりそうでどこか危うい。こんな美少年が世の中にいるとは思えなかったけれど、きっと彼はこんな美少年だという考えが剥がれようとしなかった。
この絵を見てから、私の中で『彼』が構築されていった。
文字を読めば知らない『彼』の声が聞こえるし、手紙の筆跡からは『彼』の手の仕草が見えた。
その声で私を呼んで。その手で私に触れて。
けれど恋する私はきっと醜くて、手紙の外で会いたいなんて思えなくて。
手紙の中で学校のこと、季節のこと、家族のこと、自分のこと。なんでも話して共感した。
けれどたった一言、どれだけ想いがつのっても「あなたがすきです」とだけは書けなかった。
どうかあなたとの文通が終わりませんように。ラブレターなんか書かないから。
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