聖誕快樂!(エピソード完結済)

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3  ――お前もちょいと、(ツラ)見せな。  里中のスマホへと、砧の組長から、そんな電話が入ったのは、クリスマスイブの夜だった。  場所は銀座のとある「クラブ」。  オヤジの行きつけだな……と、店名ですぐ、里中はピンとくる。  まあ、クリスマスってことだし、オレを労ってやろうという親心だろう。  里中は、そんな風に察しをつけた。    今時、「ザギン」の「クラブ」といっても、往年の隆盛は見る影もない。  とはいえ、このご時世を生き延びている店というのは、なかなか一筋縄ではいかない名店揃いだ。  ガッチリと「いい筋」の固定客を掴んでいる。  砧の組長ナジミの店の「ママ」というのも、そんな銀座で数件のバーを切り盛りする女だった。  なにせ店を持ったのも、まだ相当若い頃で。  その当時から、組長は、何かと肩入れしてやっていたのだった。  里中が店に足を踏み入れると、砧の組長は、どっかりと奥のボックスに陣取っていた。  銀座の老舗らしく、浮ついたところのない、どちらかといえば地味にも見える、小ぢんまりとした店構えだが、どうしてどうして、お値段の方は……ってヤツだ。 「あら、里中さん。いらっしゃい。随分、お久しぶりじゃないですか?」  組長の隣でウィスキーのグラスを取り替えていた和服姿のママが、ゆったりと、里中へ視線を向ける。    キラキラ派手なキャバクラあたりとは、一線を画す落ち着いた装いだった。  袂を抑える指の大粒の南洋真珠といい、いい仕立ての着物といい、金も相当かかっている。  なにより、その女ときたら、細かい仕草のひとつひとつに、やたらと色気があった。 「どうぞ、お掛けになって」  そう里中に言うと、ママはテーブルに数人いるホステスの一人に向かい、 「さ、笑美ちゃん……里中さんにお飲み物、作って差し上げて」と、サラリ、指示を飛ばした。   だが里中は、立ったまま動かない。 「おう? 来たか」  組長(オヤジ)に声を掛けられ、里中は頭を下げる。 「ほら、そこ座れ」との言葉を受けて、里中はやっと、ソファーに腰を下ろした。  ママから「笑美」と呼ばれていた若いホステスが、里中の前に、水割りのグラスを滑らせる。  それを見やって組長が、   「なんだ? 里中、ウィスキーでいいのか。好きなモン頼めよ」と発した。    オヤジ、今晩はなかなか「ゴキゲン」のようだな――  フワリと微笑しながら、里中は水割りに口をつける。  そしてふと、  そういや今晩あたりは、李さんのトコも書き入れ時なんかな。   ま、中華だが――  などと、益体もないことを思いついた。  *
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