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4
床に膝をつき、ソファーの座面に腕を預けていた里中の、後ろの割れ目に、何かが触った。
一応、里中も、なんらか「心構え」はしてはいた。
だがやはり、首筋にザザッと粟立つものを感じずにはいられない。
それは多分、李の指だった。
なにかを、里中の後孔に塗りたくり始める。
軟膏のような、ひやりと冷たく固い感触。
けれどもそれは、塗り込める摩擦と里中の体温で、すぐに温まり滑らかに広がっていった。
ジワジワと奇妙な刺激を感じて、里中は首をよじり、李を振り返る。
「お前、なに、塗ってやがんだ」
「『ナニ』って、なんでもないですよ」
「だから、なんなんだって訊いてんだろ」
「うーん、ミツロウです。滑りよくなります。肌も保護します」
……蜜蝋。
ホントに、それだけか?
「嘘ついてんじゃねぇぞ、ケツ周りがジンジンしてやがる。なんか混ぜてやがるんじゃねぇだろうな」
「『なんか』って、ナンですか、里中さん」
「だから、シャブとか」
「哦……入れません入れません。わたし、そんな高いもの買いません」
言って李がクスリと笑う。
「里中さん、たぶんお尻触られるの好きですね? ジンジン気持ちいいんでしょう」
「おい、オマエ……ナメんもいい加減に」
「舐めませんよ、舐めてほしいと言われてもイヤですね」
そして「可愛い小姐のなら、舐めてもいいですけど……」と付け足し、李は出し抜けに指先を「入口」に突き立てた。
「――――!!」
里中の背が大きくのけぞった。
全身の筋肉が硬直して、固く締まる。
すると突然、李が里中の尻肉を、思い切り叩き始めた。
モヤついたテレビの音だけが、まったりと漂っていた部屋に、バシンバシンと鋭い音が響き渡る。
「…な、にしやがる! 止めや!!」
里中が、猛烈な怒声を発した。
だが、李は里中の尻を叩く手を止めようともしない。
立ち上がり掴みかかってやろうかと、里中が腰をひねった瞬間。
李の指先が内へと滑り入った。
里中が、声をくぐもらせる。
「ほらね。里中さん、緊張してカチカチだから入らなかった。お尻の緊張ほぐすには、ぶつのが一番」
妙に得意げに言い、李はカラカラと笑った。
「テメェ…馬鹿にしてんのか」
里中が背をそらして身体を大きく捩る。
「嘩! ダメダメ。今、暴れたらアブナイです。中に入ってますから」
チクッショウめ。
ンなもん……言われなくても分かっとるが!
という言葉と、沸々とこみ上げる腹立ちとを飲み込んで、里中は背後の李を、ただただ睨みつけた。
そんな里中の凶悪な視線を、李は「レストラン支配人の営業スマイル」といった表情で受け止める。
そして、ほぼ第一関節まで挿し入れた自らの人差し指の腹で、ゆっくり、里中の内側をかき回し始めた。
大した太さもない指先が、少し入り込んでいるだけのこと。
里中も別段、痛みなどは感じなかった。
ただ動き回る感触が、どことなくムズがゆくて、きまり悪い。
李の指が、ゆっくりとピストン運動を始める。
こすれる感触で、ムズがゆさが緩和されてきた。
だが李の指の動きに合わせ、ツプリ、ツプリと粘液が立てる音が部屋に響き始めたから、里中も、また別のきまり悪さを覚えずにはいられなくなる。
とはいえ――
じゃあ「不快」なのか? と問われれば、おそらく答えは「否」だった。
なんと言おうか。まさに上手い按摩をされているような感じいうか。
身体への物理的な刺激が、単純に、そこはかとなく心地よくはあった。
要は、青竹踏みで微妙にリラックスするような、そんな感覚だ。
だが、そんな里中の後孔が、突如、熱い刺激に見舞われる。
李が、里中に挿し入れる指の数を、いきなり増やしたのだ。
一本だった指は、おそらく一気に三本ほどにされていた。
「バカ…ヤロ、オマエ……」
なじる声を上げかけた里中だったが、言葉がうまく出てこない。
「大丈夫、冇事冇事。全然痛くないですね。里中さん、ちゃんとほぐれてます」
「大丈夫」とかって、テメエ、ひとのこと勝手に決めてんじゃねぇ!
茹で上がるような腹立ちに、里中は奥歯をギリリと噛み締める。
いつのまにか、抜き挿しされる指が立てる音が変化し始めていた。
音は、クポクポと、妙に大きくていやらしい。
その淫猥さには、里中もどうにも「いたたまれない」心持ちになってしょうがなかった。
里中の、蟻の門渡のあたりが、ジュワリとした熱っぽさを帯び始める。
それは先ほどまでの、単なる「快」とは明らかに異質で、完全に性感に触れるような感覚だった。
里中の頬の頂点が、カッと燃えた。
洩れ出でそうになる吐息を、固い極道の表情で必死に飲み下す。
李は、三本の指先を揃えて、里中の内側を掻き回して擦り、緩急をつけて指圧していた。
これまで感じたことのない何かが――
アヌスから鼠径部にかけて、溶け出したバターが滲み出してくるような。
そんな感覚が、里中の下腹部を支配し始める。
すると、里中の内の一点が、李の指でグリリと強く押し込まれた。
「うぁあぁっ」
堪えに堪えていた里中も、ついに、あらぬ声を上げてしまう。
「まて、待て待て……おい、李さん、パスだパス。こんなモン『パスいち』だ」
「咦? 何ですかそれ。里中さん、ナニ言ってるか全然わかりません」
そらトボけると李は、またしても指の腹で、里中の内側を強く擦り上げた。
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