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5
パチンと、何かが弾けた気がした。
李の指圧が強すぎて、どこか内臓でもおかしくしちまったんじゃないか……と。
そんな不安が、一瞬、里中の頭をよぎる。
しかし、指の力自体は、さほどのモノではないと、そうすぐに気づけるほどには、里中も冷静さを保てていた。
ただ。
それももはや「かろうじて」といったモノではあったが――
中を押されるリズムに合わせて、後孔が、クポリクポリと水音を立てる。
頼りない吐息を洩らしたりせぬよう、里中は眉を寄せて腹に力を込めた。
「噢。ダメ、里中さん。リラックスです」
ふんわりと、李が言う。
「気楽に。マッサージ、気持ちいい気持ちいい」
「いや、あのな。気持ちいいっていうかな……なんか、ションベン洩れそうな感じすンだ。おい、いいから…ちょっ、一旦ヤメろや」
「トイレ行きたいは、大丈夫」
「大丈夫じゃねぇっ……!」
「大丈夫、無問題。トイレ行きたい気がするのは、ちゃんとマッサージ効いてる証拠です。あっ! ほら、里中さん、見て見て!」
李にそう促され、里中は、どうにもできぬまま、ただソファーの背を見つめ続けていた視線を自らの下腹部へと向けた。
「ね、里中さん、立派になってきた」
確かに――
里中の局部は、張りを持って勃ち上がっていた。
角度こそまだ緩いが、それでも。
すでに、「やってやれないことはない」レベルには達している。
そもそも里中の「道具」は、どうしてどうして、なかなかのモノなのだ。
たとえ完全勃起でなくても、それなりに「モノの役」には立つほどに。
昔から「女受けしないご面相」の里中にとって、「その点」だけは自己肯定感を高めるのに、密かに役立ってきたのも事実。
「哦! 里中さんの陽具、ご立派。萎んでても、結構大きかったですね」と、李も、さりげなく里中の自尊心をくすぐることを言う。
すぐに、ズクンと、陰茎に疼きが来た。
里中にとって、久方ぶりの勃起の快感だった。
その刺激に脳を突き刺され、思考は「竿を扱きたい」という一点に集約されていく――
里中は、ソファーの座面を掴んでいた手を片方離し、股間へと下ろす。
握りこんだペニスの熱と硬度は、馴染みある、そしてやや懐かしい感触だった。
一度、上下に擦れば、グチチ…と、亀頭に滲み出したカウパーが音を立てる。
里中は速度をつけて、イチモツを扱き始めた。
ジュックジュック……と、粘液が小気味いい音を立て始める。
思考を焼く心地よさが、里中の手指を駆り立てて止まらない。
隆起は、昨今、稀に見るほどに増していた。
そして快感の方もまた、それと同様だった。
短く鋭い鼻息を漏らしつつ、里中の自慰は激しさを高めていく。
ぶるりと、里中の頰肉が震えた。
射精の予感が、里中の脊髄を駆け抜ける。
その刹那、里中の手首が李の指に、ガシリと掴み取られた。
「ダメ、ダメですよ、里中さん。まだ出したらダメ」
「ウルサイっ、離せ」
「冇呀」と、子供でも宥めるかのように言って、李は、
「ダメダメ、早すぎる男、嫌われます」と続ける。
その台詞には、里中もハッと怯んだ。
「マッサージ、まだまだこれからです。もっと勃起しますよ、角度も『グイン』」
そう言って李は、「哈哈哈哈哈哈」と乾いた声で笑う。
そして、しぶしぶと離れていく里中の指に続いて、隆起した部分を握りこんだのは、李の指先だった。
それは、ヤケに滑らかな肌触りの手指だった。
男にしては細めの指だな……と。
里中は、そんなこともチラリと思う。
ゆっくりと、李が里中を扱き始めた。
無論、後ろの「マッサージ」も同時進行で。
「好呀。スゴイね、里中さん。大きい大きい、太さもスゴイ」
あたかもマッサージの店員が「お客さん、凝ってますね」などと世間話でもするかのような口調で、李が里中の「陽具」を誉めそやす。
「日本のヤクザ、『ここ』に色々……嗯、真珠とか? 入れるヒトいますね。サウナでたまに見ます。でも、里中さんのサイズなら、そんな色々しなくても女の子大満足。違いますか」
なんというか。
そこまで言われると里中としても、誉められているというよりも馬鹿にされているような気が、段々としてこないでもない――
「こんなに立派なのに、勃たないのは寂しかったですねぇ」
と、ついには同情まで入ってくれば、里中もやはり、どうにもやりきれなくなってくる。
しかし、そうこうするうちに、里中の陰茎は益々固く大きくなっていた。
イチモツが快感を拾って痙攣するたびに、里中も、そのずっしりとした重みを感じずにはいられない。
そして、「後ろのマッサージ」の「刺激」はといえば、里中の内では、もはや勃起の快楽と混然一体と溶け合ってしまっていた。
「……イク」
ふと、里中の口をついて、そう漏れた。
李の掌に勃起体を擦り付けるようにして、里中の腰が、激しくグラインドする。
里中の脳裏をよぎるのは、さっきのホテルの女――
ああ、チクッショウ。
こんなところで「無駄弾」を。
アクメの予感が、腰を痺れさせ脳髄へと駆け上がってくるさなか。
里中の頭の中を、グルグルと思考と記憶の断片が廻った。
チクショウ。
今、あの女のマンコにぶち込んでたら、どれほどか……。
チクショウ、チクショウ。
「うぁあっ……」
悲鳴めいた呻きを洩らし、里中がスペルマを弾けさせた。
ビクンビクンと、背中が腰が、そして陰茎がしなる。
里中の先端からは、濃く熱い白濁が、長く長くほとばしり続けた。
やがて放出が終わる。
だが、陰茎のヒクつきは、しばらく残っていた。
絶頂の余韻もまた、驚くほどに後を引いている。
すると、李が、
「好嘢、好嘢!」と、どこかしら他人事みたいに囃し立て、パチパチパチと両手を叩いてみせた。
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