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7
そしてまた、里中は絶頂に達した。
一度目よりも、若干量は減ったが、白濁はそれなりにほとばしり、里中に痺れる快感を与えた。
洩れ出でる嬌声は、もう押し殺せなかった。
腰と尻肉を震えさせ、精液を放出する。
「はしたない」
今の自分をあらわす言葉として、そんな単語が脳裏に浮かんだ。
そして、そのことにこそ羞恥を感じて、里中は耳朶を赤くする。
二度も思い切りイキまくって、里中の腹筋と腿裏は、ほとんどつりそうだった。
しかし信じられないことに、疼きはまだ、完全におさまりを見せていないのだ。
三連チャンの射精なんぞ、しなびた中年男の身体には、どうにもキツイ。
だがそれでも、里中は自慰の手を止められず、またしても自らの竿と玉裏を弄り始めた。
会陰の押し方も、少しずつコツが分かってくる。
微妙な位置や方向。
力の入れ加減とリズムで、まったく感じ方が違うのだ。
振動が「奥」の方へと伝わり、ジワッと溶けるような感覚を覚え始めれば、途端に陰茎が力量を増し始める。
いつの間にか映画が終わり、テレビの画面は通販番組に変わっていた。
テレビの機械本体のせいなのか、モヤつく音声は相変わらずだった。
観覧の客の、やたらわざとらしい歓声も、里中が白液まみれの陰茎を扱くグチョグチョとした音にかき消されそうだった。
声が。
イヤラシイ声が、どうしようもなく洩れ出した。
いい歳したオッサンが、こんな声上げていいのかよ? と。
里中も、自分自身に呆れるほどの「よがり声」だった。
そんな里中の痴態をソファーに座って見下ろしながら、コップ酒のようにして淡々と「ジンスト」を飲み下していた李が、ふと溜息をつく。
「里中さん、とっても楽しそうですね。見てたら、ワタシも咸湿したくなってきました」
「ハンサップ」は、里中が渡航後、ごく最初の頃に覚えた広東語のひとつだった。
男どもが寄って集まれば、ニヤニヤ笑いの内に、しょっちゅう話される言葉――
要は「好色」、スケベってことだ。
当時はまあ、男どもも屈託なく元気溌剌だった。
時代も、今とは違って「上げ潮」だったしな――
などと、昔を懐かしむ感慨がこみ上げたのも一瞬で、里中はすぐに、今、まさに極めようとしている淫慾へ引き戻される。
李がリモコンでテレビを消した。
そして、スマホを手に取り、ソファーの淵に立てかける。
スマートフォンの小さな画面に表示されているのは、どうやらポルノ動画らしかった。
すぐに、女の嬌声が部屋に響き始める。
李がスルリとスラックスを脱ぎ捨てて、ためらいもなく下半身をあらわにした。
その足腰は、きちんと引き締まっている。
動画に視線を落としながら、李は自らの男性自身をゆっくりと握りこんだ。
陰茎を扱う李の手つきは、やわらかだった。
揃えた指先が、ごくなめらかに蠢くさまは、「いやらしい」というよりも、むしろ「精緻」と評したくなるほどで。
それは、熟練の職人めいた几帳面さだった。
そんな淫慾のかけらもないような手つきの内で、けれどもペニスは、見る見るうちに勃起していく。
里中ほどではないが、李の道具も「なかなかのもの」だった。
欧米人のブツのように長さがある。
なにより見事なのは、その「角度」だ。
なるほど、「角度グイン」だのと、しきりに言うだけのことはある……。
十九、ハタチの小僧じゃあるまいし。
あの勃ちっぷりは見事なモンだと、里中も思わず感心してしまう。
李は、わずかも息を乱すことなく、黙々と竿を扱き続けていた。
滑らかに波打つ指使いは、少しずつ複雑さを増していて、李の男性自身も、さらに太さと固さを強めているようだった。
あんな風に――
あんな手つきで、あの指で弄られたら、さぞ気持ちがよかろうな。
さっきみたいに?
そんな思考が、ふと里中の内に浮かんだ。
おい、なに考えてんだよ、オレは……!?
里中は大きくかぶりを振る。
ジュチ…ジュチ…と、李が自らを扱く音は、里中が立てるものよりも小さいはずなのに、なぜなのか里中は、李の音の方に気を取られて仕方がなくなる。
ふと音が変わった。
いや、増えたのだ。別の音が。
李は、自らの後孔も弄り始めていた。
片腕は後ろに、もう片方の手はペニスを扱いて、身体をギュッと捩じるような体勢ながら、李の姿には、りきむような不自然な固さは微塵も見えなかった。
まるでイルカか何かが泳ぐように、しなやかに身体をしならせ、腰でリズムを刻む。
スマホの画面の光に、李の横顔が、ぼんやりと照らし出されていた。
かすかな笑みをたたえたような表情。
そこにもまた、なんらの焦燥感も滲んではいなかった。
確かに……。
昔の「香港明星」みたいっちゃ、そうかもしらんな。
李の横顔の端正な輪郭を見やって、里中はそんなことを考えた。
動画では、女のよがり声が、どんどんと激しくなっていく。
尻に腰を打ち付ける肉の音も。
映像の中での行為の、クライマックスは近そうだった。
李の息遣いが、少しずつ乱れをみせ始める。
女がひときわ激しく啼き、男が吠えた。
李が自らを深く穿って、低く呻く。
気づけば里中も、三回目のアクメを極めていた。
そしてそのまま、一気に眠りに落ちる。
その三回目の絶頂が――
実は、スペルマの放出をまったく伴わないものだったということに、里中が気づいたのは。
その夜から、何日が経った後のことだった。
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ジンスト≠ジンストロベリー(そんなのあると、初めて知った)
ジンスト=ジンストレート
……こうして、秦さんの知らないうちに、「ケツア●メ」(僕澁48-3)の世界が、身近なところで広まっていくのであった。
って。
里中さん、ホダされるの早すぎだってば……
(でも、ちょっと孤独でしなびたオッサンが、すぐにほだされるのが萌えポイントでして)
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