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食飯未呀?
1
女の腕が、首筋に回される――
すべらかな肌。
サラリとした髪。そして甘い匂い。
こいつは、相当に「金のかかった」匂いだなと。
里中はボンヤリ、そんなことを思う。
そう、まるで夢の中にいるように、何もかもがボンヤリとしていた。
女は半裸だった。
バスローブの合わせ目を押し開き、白く弾む乳房を掌に収める。
小ぶりなそれは、ツンと上向きでいい形だった。
中心にある珊瑚色の粒を親指で押しつぶせば、コリコリとした感触が小気味よく心地いい。
淫猥に計算され尽くした声で、女が喘ぐ。
ズンと腰が痺れた。
女の股を割り、指を滑らせれば、既にそこはヌルヌルに愛液を滴らせている。
今すぐ、ここにブチ込んでやる。
デカいのを、奥まで。
ガンガンに腰を打ち付けて、ヒイヒイよがらせてやる――
里中のうなじを、殺気に満ちた征服欲が駆け上がってきた。
スラックスのジッパーを下ろし、自らの雄を掴む。
だが――
それはぐにゃりと頼りなく緩んだままだった。
なんでだ?
腰は痺れ切って、脚の付け根はカッカとした熱っぽさを孕んで堪らない。
こんなにも「感じて」いるのに。
なのに、どうして――
はやく勃たせなければ。
すぐ今、すぐに。
焦る気持ちとは裏腹に、里中の「男」は、ピクリとも脈打たなかった。
やわらかく頼りないそれを掴み出し、里中は必死に扱く。
快感はあるのだ。
疼くような溶けるような。
腹の奥が熱くなって、バターがとろけるようにジワリと。
腰から前の方に――
「後ろ」から前に……?
ジンジンと痺れ切っているのは、その場所は……。
「……うぉっ」
くぐもった悲鳴とともに、里中がガバリと起き上がった。
朝の陽ざしが、カーテンの隙間から白く真っ直ぐ、布団の上に差し込んでいる。
チチチチュチュと、雀が鳴いた。
「ったく、年甲斐もなくエロい夢、見ちまったな」
里中が呟く。
「しかも、なんか後味のワリぃような……」
独り言を続けながら、里中はふと、自らの股間に目を止めた。
「勃った」
里中の「マラ」は、ほぼ完全勃起のレベルで、元気いっぱいに勃ち上がっていた。
――朝起きたとき、『元気元気』にもなりますよ。
里中の脳裏に、そんな科白がよぎる。
そして、それを口にした男の横顔も。
おお……と、思わず感嘆の声を洩らしながら、里中はそっと陰茎を握りこんだ。
鋭い快感が突き抜け、腹の中を焼き付かせる。
その余韻が下腹の奥で、いつまでも後を引いていた。
腹の奥。
それは、その場所は……。
クポリクポリと。
抜き差しされる水音。
内側で蠢く指先。波立つような刺激――
夢中で茎を扱き始めていた里中は、そこでハッと我に返る。
「ああ、んな『無駄玉』打つこたねぇな」
今一度そう呟くと、里中はスッパリと自慰を止めてベッドから降りた。
*
そうとなったら女の手配だ。
日が暮れるまで待てる気がしなかったから、組絡みのツテを当たった。
割と律儀な里中は、仕事と私用はキッパリ分ける派だった。
だが、「背に腹はかえられない」こともないわけじゃない。
そして、開店前の風俗に、まあまあのデリヘル嬢を用意させた。
一応、秦久彦から貰った「例のクスリ」も準備はしておいたが、今日の里中には、自信があった。
オレはイケる――と。
――そして。
結論から言えば、その日の戦績は、まあ「善戦」といったところだった。
用意した女は悪くなかった。
そりゃこの前、秦久彦が誂えてくれた女と比べるべくもない。
仕方がないことだ、あの女は「別格」だった。
だが女は、それなりに里中のタイプで、まだ若く、しかもイヤラシイ匂いをプンプンさせていて、エロかった。
半勃起までは、すぐにこぎつけた。
ダメ押しに、バイアグラのODシートも舌下に畳み入れた。
女を四つ這いにさせ、なんとかブツをブチ込んでやるところまでは行ったのだ。
やっぱり、女の膣は堪えられない。
ヌルリと暖かく、襞が絡んでやわらかく締め付けてくる。
だが……。
何度か腰をグラインドさせたところで、里中の「息子さん」は、急遽、元気を失くしたのだ。
クスリを追加したり自らの玉裏を刺激してみたりと、あらゆる手立ては尽くしたが、結局、最後は中折れした男茎を、しおしおと女の胎から引き抜いて、コトは終わった。
「オッサン相手、そんなことは慣れっこ」とでもいう風に、貰った金の分だけは愛想笑いをすると、女はサッサと去っていった。
いい線までいったンだがな――
だがそれだけに、「最後までできなかった」ことが、腹立たしくて情けない。
事務所に戻った里中の頭の中を、またしても忸怩たる思いが回り続ける。そして、
――その場だけじゃないですね。
キチンと続けると、カラダ変わります。ずっと元気が続くようになる。
という、あの男の言葉も。
なんだよ。
じゃあ、「もうちょっと」やりゃ、さらに効果が続くってことか?
確かに「効果」は「あった」。
朝勃ちなんぞ、何年振りのことか。
それに一応、今回は「挿入」まではいったワケだ。
そして……。
そうやって、あれこれモダモダと考えすぎてしまい、自らが、もう相当に冷静さを欠いていることに。
里中は、もはや気づいていなかった。
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