埋單, please!

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2  秦の乗ったタクシーのテールランプは、突き当りの丁字路を左折して、すぐに消えて行った。  いつまでも、往来で「立ちん坊」しているワケにもいくまい――と。  我に返った里中は歩き出す。  とりあえず、その足は、秦から手渡されたカードキーのホテルへと向かっていた。    高い天井からアールデコ風のシックな照明が釣り下がり、床には大きく段差が設けられたロビーを突っ切って、里中はエレベーターで指定の部屋へと上がる。  「一番のスイート」とまではいかなかったが、格はそれなりのツインベッドルームだった。ご丁寧に、窓辺の肘掛椅子の横には、女を呼ぶ手はずを記したメモが置かれている。  大叔父は、一度、この部屋に入ったのだろうか?  ポケットからスマホを取り出し、里中が指定された番号に掛けてみれば、「五分でお伺いします」と事務的な男の声が応じた。  おそらく、どこかホテルの近辺で連絡待ちをさせていたのであろう、きっかり五分で部屋のドアがノックされる。  扉を開ければ、やや細身の女性が部屋に入ってきた。  合い物のシンプルなコートをまとっていて、髪は長くも短くもなく。  歳も、正直判然としない。  二十代中盤にも見えるし、ひょっとしたら三十代という可能性もありそうだ。ともかく遠目には、なんの変哲もなく、特に目立つ特徴もない風な女。  だが近づいてみれば、その女の肌も髪のツヤも。  指先も何もかもが、日々ふんだんに手間暇と費用をかけて磨きまくっているのが、一目瞭然といった様子。    スルリとコートを脱いだその内側、女の着ているブラウスとタイトスカートが高級メゾンのもので、そこらの会社員のボーナス全額出したって買えるか買えないかの品であることも、里中には見て取れた。  女からは、やたらと「いい香り」がした。  色香のために、日々、ジャブジャブと浴びている「金」の匂いだろうか――  とにもかくにも、それはとんでもない「上玉」だった。  そんな風にして女を吟味しながらも、里中の心中には、  コイツは一体、一晩「いくら」ぐらいするんだろう……という、かなりショボい考えが浮かんでしょうがない。    ――まあ、ひょっとすりゃ、大叔父の持ってる店のオンナなのかもしれないがな?  秦のシノギについて、はっきりしたことは何も知らないながらも、里中は、そんな「アタリ」をつけてみたりもした。 「何か、飲まれます? それとも」  女が里中へと、静かに問いかける。 「あ? ああ……オレは、ちょっと風呂入ってくらぁ。座って、なんか飲んでな? 好きなモン頼んでもいいし、ありモンでよければ、そこらの適当に」  そう言ってミニバーを顎でしゃくり、里中は、ややいそいそとバスルームへ入っていった。  シャワーを終え、里中がバスローブ姿で浴室から出て来れば、女は脚を組んでソファーに座り、フルートグラスを傾けていた。  冷蔵庫に、シャンパンのハーフボトルがあったようだ。  女には「なんでも好きなものをルームサービスで」とは言ってやったものの、おそらく「そうはしないだろうな」と、里中にも予想はついていた。  こんな高級ホテル、いかにも「商売」だと分かるような人間の出入りに「いい顔」はしない。  女だってホテルの人間には、できるだけ顔を合わせたくないはずだ。  ということで、むこうさんも「商売」だ。だったらこっちも――  さっさと「やること」をヤルだけだな。  里中は、おもむろにバスローブの前をはだけると、背筋を伸ばして優雅に座る女の眼前に、自らの局部をさらけ出した。
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