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――オーソドックスな粤菜なんてモン、そもそも「ひとり」で行くようなところじゃない。
昼ならまだしも夜はなおさら。それも銀座の老舗。
かといって、組の若いのを連れていきたいような場所でもねぇし。
もちろん、アイツらにも、たまには「ちゃんとしたモン」ってのを味わわせてやった方が、教育上良かろうとは思う。だが。
正直、そういう気分にはなれねぇのは――
「なんでだろうな」と、胸のモヤモヤをひと言だけ洩らし、結局、里中は組の若いのを焼肉に連れて行った。
まあ、それにしたって、若いヤツはよく喰うわ……と。
ビールを片手に、もっぱらツマミにナムルとキムチをつつきながら、里中は組の連中を打ち眺める。
そうだな。
「あの店」も、俺は夜、秦の大叔父に「連れられて」行ったんだからな。
あそこは、そもそも大叔父の「行きつけ」だ。
そりゃ、コイツらを引き連れて、俺がデカい顔して行きたい気になれねぇのも当然か――
だが、忽然と姿を消してしまった秦が、その店に顔を出すことも、もうないのかもしれない……などと、そんなことがよぎれば、里中の胸もまた、すこしせつなくなる。
するとふと、里中の脳裏に、酒家の支配人、李の顔が浮かんだ。
自称、「張國榮」似。
「言われてみれば、まあそうかもな?」くらいには、似ているかもしれない。
そこそこの美男子で、年齢不詳な男の横顔が――
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