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若い連中も、もう肉も食いたいだけ食い尽くし。
シメの冷麺やらビビンバやらのどんぶりも、あらかた空になった頃合いだった。
「おい。お前ら、もう腹はくちくなったのか」
里中が、低く座に問いかける。
「うっす、兄貴」
「代貸、今晩はご馳走になりやした」
一同が、ろれつの回らぬ口調で、里中に対して口々に礼を述べる。
なにせ飲みたいだけ飲み、喰いたいだけ喰った後だ。
皆が皆とも、なんとか姿勢だけは正そうとして、けれども失敗し、グダグダと椅子の背に寄りかかっていた。
「じゃあ、俺は先に帰るぞ。あとは適当にしとけ」
伝票を掴み、里中が立ち上がる。
レジで金を払い終え、店を出しなに、サービスのガムを口に放り込めば。
思わず「ヤレヤレ……」といったボヤキが、里中のくちびるを突いて出た。
そして、着ている上着の内ポケットに札入れを戻した時だった。
「おっと……スマホどこやったか」
そういや、出がけに一、二本電話して――
「しまった、机の上に、置き忘れてきちまった」
少々面倒な気がしないでもなかったが、砧興業までは、ほんの五分といったところ。
「しょうがねぇや」と呟いて、里中は、事務所に向かって歩き出した。
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