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4
「いい匂い」がした。
やけに香ばしい。
焼き立てパンの匂いだなと。里中はそんなことを思う。
大叔父ンとこのシライシが、買ってきたか――
――おはようございます、秦の大叔父。今日はお早いですな?
半開きのドアに、里中は、そう声を掛ける。
「おう、里中の。おはようさん」
低く胆力のある声。
けれど決してうるさく耳障りなところのない声音で、秦久彦が応じた。
「会釈でも」と、里中が部屋を覗く。
手前に置かれたソファーの座面に、秘書のシライシが両手をついていた。
床の上に膝を折って、四つ這いになっている。
紺のジャケットにネクタイをピタリと締め上げたワイシャツ姿のシライシは、なぜか下半身を露出していた。
何が起きたのかと、面食らって瞬く里中に、秦がザラリと乾いた微笑を浮かべて見せる。
その手には、濃紫の……巨大な――
――!
――――!!
白い日差しの中、里中がガバリと飛び起きる。
「これは夢だ」と。
目覚める直前に、直感していた。
ああ、こんな寝覚め。
前にもなかったか? つい最近に。
「しかし、なんつう夢を……」
溜息をついて、ひとつ掌で顔を擦って俯けば、里中の視線は自らの下腹部に落ちる。
「朝の栄光」――
そう。
「朝は」勃つのだ。最近は、割と。
続く勝利の予感に、里中は喜びを噛みしめる。
おそらくは……。
「もうちょっと」なのではないだろうか。
「男性自身」の自信を取り戻すまでには。
里中は、そんな風に希望をつなぎとめる。
そして、うれしさのあまりか。
「そうなった」理由だったかもしれない、さっき見た淫夢については、すっかりと頭からうちやってしまっていたのだった。
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