蛋撻rhapsody(エピソード完結済)

17/18

316人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
9 「噢……鋁箔、アルミホイル、ありますか」 「あぁ? っと……どうだろうな」  里中が、台所に入りシンクの引き出しをかき回す。 「あったあった、ちっと古いが、別にいいんだろ?」 「蛋撻(ダーンタッ)、一個ずつ包んでください」  「包む?」と返してから、里中はエッグタルトの箱を開けた。  蛋撻は四つ入っていた。  その一つ一つを、里中はガサゴソとアルミ箔でくるんでいく。 「包んだぞ。それで、どうすんだ?」 「冇是冇是(モウシーモウシー)……違います、もっと下の方、厚くして。すぐ焦げます」 「厚く?」    ったく、菓子ひとつ喰うのに面倒くせぇこったな……と。  そうボヤキはしたものの、里中は、タルトの底の部分でクシャクシャとアルミ箔を揉み固める。 「では、オーブンに入れてください」 「んなモンはねぇ」 「だったら……トースター」 「ねぇな」  李が黙り込む。  そして、啊! と短く叫び、 「コンロ、ガスコンロの焼くヤツ、焼き魚の……」と続けた。 「魚焼きグリル?」   里中が、怪訝な声を洩らす。「魚臭くならねぇのかよ」  そうは言いつつ里中も、「まあ、魚なんぞ家で焼いたことはなかったがな」と、すぐ思い至った。  しかし李は、ごくマジメに、  「冇問題(だいじょうぶ)。グリルは温度が高いです。匂い、移りません」などと請け合う。  その後も、やれ「弱めの中火」だの「傍についてて、焦げる匂いがしたらすぐに出せ」だのと、李の指示はやたらと細かかった。  ボヤキ節を噛みしめながらも、里中は一応、律儀に李の言う通りにしてやる。    部屋中に甘く香ばしい匂いが広がってきた。 「里中さん、もう、出していいです」  李の指示が飛ぶ。 「小心(シウサム)! やけど、気を付けて」  そんな李の声掛けと、熱されたアルミ箔へ不用意に指を伸ばした里中が、「あぢっ!」と叫んだのは、ほぼ同時で。 「(イェー)、おバカですね、里中さんは」と、李のダメ出しが止まらない。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

316人が本棚に入れています
本棚に追加