315人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
2
――ああ、そうかい、もうすぐクリスマスか。
木々が余さず、豆電球でグルグル巻きにされた並木道を歩きながら、里中は感慨深げに街を眺めやる。
年々、歳末が来るのが早くなる気がしてならなかった。
暮れというのは、里中の「稼業」的には「かき入れ時」だ。
コゲついた金の取り立てやら、浮かれ騒ぐ「夜の街」での「トラブル対応」やらと、あれこれ目白押しで、年末年始に事務所を閉めることはない。
年越しは「砧の事務所」というのが、里中の毎年だった。
――本家の会長ンとこの歳暮は、無事着いてるようだし。
あとは組長と、年明けの挨拶に行くときの、アレだな。
おっと、劉山会の「新年パーティー」の会費もあったっけ。
せめて「五本」は入金しとかねぇとな……。
新春早々、シケた真似しちゃあ、オヤジの顔を潰しちまう。
景気よく七とか八とか、縁起のいい数字にしたいとこだが。
まあ、砧興業の「懐具合」ってモンもあるし――
さて、宅配の兄ちゃんは、今年は、いつまで仕事なんだ?
そろそろ、ポチ袋、用意しといてやるか。まあ、年明けにすっか。
事務所周りの細っけぇことは、大概、谷本のヤツに任せちまいたいんだがな。
アイツ、腕っ節と体力だけで、いくつになっても、ホント気ぃきかねぇし……。
浮足立つ銀座の街を歩きながら、そうやって、アレコレ気を回していた里中は、
「ヤレヤレ、年の瀬は気ぜわしいこった」
と、ひとつ盛大に溜息をついた。
*
最初のコメントを投稿しよう!