聖誕快樂!(エピソード完結済)

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2  ――ああ、そうかい、もうすぐクリスマスか。  木々が余さず、豆電球でグルグル巻きにされた並木道を歩きながら、里中は感慨深げに街を眺めやる。  年々、歳末が来るのが早くなる気がしてならなかった。  暮れというのは、里中の「稼業」的には「かき入れ時」だ。  コゲついた金の取り立てやら、浮かれ騒ぐ「夜の街」での「トラブル対応(ケツ持ち)」やらと、あれこれ目白押しで、年末年始に事務所を閉めることはない。  年越しは「砧の事務所」というのが、里中の毎年だった。  ――本家(劉山)の会長ンとこの歳暮は、無事着いてるようだし。  あとは組長(オヤジ)と、年明けの挨拶に行くときの、アレ(年賀)だな。  おっと、劉山会の「新年パーティー」の会費もあったっけ。  せめて「五本」は入金しとかねぇとな……。  新春早々、シケた真似しちゃあ、オヤジの顔を潰しちまう。  景気よく七とか八とか、縁起のいい数字にしたいとこだが。  まあ、砧興業(うちトコ)の「懐具合」ってモンもあるし――  さて、宅配の兄ちゃんは、今年は、いつまで仕事なんだ?  そろそろ、ポチ袋、用意しといてやるか。まあ、年明けにすっか。  事務所周りの細っけぇことは、大概、谷本のヤツに任せちまいたいんだがな。  アイツ、腕っ節と体力だけで、いくつになっても、ホント気ぃきかねぇし……。  浮足立つ銀座の街を歩きながら、そうやって、アレコレ気を回していた里中は、 「ヤレヤレ、年の瀬は気ぜわしいこった」  と、ひとつ盛大に溜息をついた。 *
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