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「おう、今、帰りかい? 李さん」
里中が尋ねる。
――っていうか、この広東人。
なにをヘンテコなサンタの帽子なぞかぶっていやがる?
「係……そうですよ」
李の返答は、その足元と同じく、どこかしら覚束ない様子だった。
「なんだ、李さん。飲んでンのか?」
「今日、店、忙しかったです。売上もタクサンありました」
「そうかい、ソイツは景気のいいこって、何よりだ。ま、クリスマスだしな」
「だから、店閉めてから、一杯飲みました」
いや。
その様子じゃ、「一杯」どころじゃなさそうだがよ?
「…里中さんは、どうしました? こんな時間に」
「ああ、オレはまあ」
オヤジの付き合いで……と、里中が言いかけたところに、李が割って入る。
「そうだ、飲みましょう、里中さん! これから一緒に、飲みに行きましょう!」
「李さん、アンタ……もう結構、出来上がってるみたいだぜ、やめときな」
「冇! 全然、飲み足りないですね」
いやいや、全然足りてるだろ……と、胸の内で呟いた里中の腕が、グイと李に掴まれた。
「前、一緒に行ったバーで、好冇?」
そう言うや否や、頭からサンタ帽をひょいと取ると、李は通りがかりのタクシーにすかさず手を上げた。
なんだなんだ?
李さん、今晩は、メチャメチャ「ごきげん」だな。
オヤジといい、李さんといい。
やっぱり、世の中「クリスマス」っていうと、いい大人までが「浮かれトンチキ」になるモンなんか。
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