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「なあ、李さん。その後はどんな様子だ……例の」
里中の問いかけは、前後を端折った、やや唐突なもので。
まだ酔いの覚め切らない李は、咄嗟に意味を掴みかねる。
けれども、すぐに里中の言わんとすることに気づいて、李は小さく微笑んだ。
「ダイジョウブみたいです……後から来た方のヤクザ、もう、玲姐姐のところには現れないそうです」
そう――
「どっちのヤクザも顔を見せない」のでは、むしろマズい。
また、あれこれと目を付けられないように、一応は、キチンとどこか、「後ろ盾」は作っておくのが得策だというのが、里中の考えだった。
まあ、連中には、あまりアコギに「みかじめ」を搾り取るなとは言い含めておいたがな。
一応、余所のシマのことではあるし、そうそう、デカいツラして踏み込むワケにも行かねぇトコロだ。
「……多謝、里中先生」
李が、呟きで言い添える。
噛みしめるように。
李の言葉から滲み出る誠意のようなものが、妙に気恥ずかしくて、里中は無言のままズブロッカを呷った。そして、小さく鼻を啜り、
「おい、李生よ、その……『玲姐姐』ってのは……ホントに李さんの姉さんなのかい」と続けた。
噢……と唸って、李は茶に口をつける。
「なんなんだよ、違うのか?」
「違わないです、『お姉さん』ですよ……わたしが日本、来たばかりの時、すごくお世話になりました。だから、玲姐は、わたしのお姉さん」
そう言われれてしまえば、里中も「おう、そうかい」と応じるしかなくなる。
すると李が、ふわりと口もとを緩めた。
そして、
「啊……やっぱり」と、したり顔に声を上げる。
「里中さん、姐姐のこと、好みなんでしょう? 咸湿したいんですね」
「この…ド阿呆が」と、李を怒鳴りつけてから、里中は、盛大にズブロッカに咽せ込んだ。
「それで? 里中さんの『その後』は、どうなんですか」
「『どう』って、なんだよ……」
「『アレ』です、アレ」
李が、厭味なほどに勿体ぶった微笑を浮かべた。
「『元気元気』、順調ですか?」
一瞬、虚を突かれはしたものの、短く咳ばらいをしてから、里中は、
「まあ、そうだな。ボチボチってトコだ」と、迂遠に続ける。
「『ボチボチ』? イイってことですか?」
李が首を傾げる。
「じゃあ、可愛い小姐とエッチできてます?」
「いや……それは、まあ」
言い淀む里中を見やって、李がハッと表情をこわばらせた。
「喂! まさか、里中さん……あの『大きいモノ』使うのにハマって……」
「バッ……!!! ナニ言ってやがる、この……っ、だからアレはだな、秦の大叔父…」
「え?」
「いや、だから、その」
「秦さん? 秦さんがどうかしましたか?」
「その、だから、アレはだな……秦の大叔父御の部屋に置きっぱなしになって……っていうか、大叔父が『あんなもん』に用があるわきゃねぇんだし、その…おそらくだな、大叔父ントコの若いヤツの……」
「……?」
「だから、大叔父のな、秘書みたいなコトやってた若いのがいたんだ。シライシってヤツでな。あの柳の買い物カゴも、そもそも、あの兄ちゃんのだったし」
ああ、チクショウめ。
なんでこんな話になるんかな……と。
どうにも腑に落ちないモノを感じつつも、成り行き上、仕方なく里中は続ける。
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