聖誕快樂!(エピソード完結済)

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5 「なあ、李さん。その後はどんな様子だ……例の」  里中の問いかけは、前後を端折った、やや唐突なもので。  まだ酔いの覚め切らない李は、咄嗟に意味を掴みかねる。  けれども、すぐに里中の言わんとすることに気づいて、李は小さく微笑んだ。 「ダイジョウブみたいです……後から来た方のヤクザ、もう、玲姐姐(リンジェージェー)のところには現れないそうです」  そう――  「どっちのヤクザも顔を見せない」のでは、むしろマズい。  また、あれこれと目を付けられないように、一応は、キチンとどこか、「後ろ盾(ケツ持ち)」は作っておくのが得策だというのが、里中の考えだった。  まあ、連中には、あまりアコギに「みかじめ」を搾り取るなとは言い含めておいたがな。  一応、余所(銀寮会)のシマのことではあるし、そうそう、デカいツラして踏み込むワケにも行かねぇトコロだ。 「……多謝(ドージェ)、里中先生」  李が、呟きで言い添える。  噛みしめるように。  李の言葉から滲み出る誠意のようなものが、妙に気恥ずかしくて、里中は無言のままズブロッカを呷った。そして、小さく鼻を啜り、 「おい、李生(リーさん)よ、その……『玲姐姐』ってのは……ホントに李さんの姉さんなのかい」と続けた。  (オウ)……と唸って、李は茶に口をつける。 「なんなんだよ、違うのか?」 「違わないです、『お姉さん』ですよ……わたしが日本、来たばかりの時、すごくお世話になりました。だから、玲姐(リンジェー)は、わたしのお姉さん」  そう言われれてしまえば、里中も「おう、そうかい」と応じるしかなくなる。  すると李が、ふわりと口もとを緩めた。  そして、 「(あぁ)……やっぱり」と、したり顔に声を上げる。 「里中さん、姐姐(ねえさん)のこと、好みなんでしょう? 咸湿(スケベ)したいんですね」 「この…ド阿呆が」と、李を怒鳴りつけてから、里中は、盛大にズブロッカに咽せ込んだ。 「それで? 里中さんの『その後』は、どうなんですか」 「『どう』って、なんだよ……」 「『アレ』です、アレ」  李が、厭味なほどに勿体ぶった微笑を浮かべた。 「『元気元気』、順調ですか?」  一瞬、虚を突かれはしたものの、短く咳ばらいをしてから、里中は、 「まあ、そうだな。ボチボチってトコだ」と、迂遠に続ける。 「『ボチボチ』? イイってことですか?」  李が首を傾げる。 「じゃあ、可愛い小姐とエッチできてます?」 「いや……それは、まあ」  言い淀む里中を見やって、李がハッと表情をこわばらせた。 「喂! まさか、里中さん……あの『大きいモノ』使うのにハマって……」 「バッ……!!! ナニ言ってやがる、この……っ、だからアレはだな、秦の大叔父…」 「え?」 「いや、だから、その」 「秦さん? 秦さんがどうかしましたか?」 「その、だから、アレはだな……秦の大叔父御の部屋に置きっぱなしになって……っていうか、大叔父が『あんなもん』に用があるわきゃねぇんだし、その…おそらくだな、大叔父ントコの若いヤツの……」 「……?」 「だから、大叔父のな、秘書みたいなコトやってた若いのがいたんだ。シライシってヤツでな。あの柳の買い物カゴも、そもそも、あの兄ちゃんのだったし」  ああ、チクショウめ。  なんでこんな話になるんかな……と。  どうにも腑に落ちないモノを感じつつも、成り行き上、仕方なく里中は続ける。
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