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「多分……ソイツ、『アレ』だったんだろうよ? だから、あんなモンが」
「……咦? 『アレ』ですか」
李が、軽く顔をしかめた。
「そう、『アレ』だ。まあ、それは『そう』としてだが。その白石っちゅうヤツ、気の毒にまだ若い身空でおっちんじまってな」
言って里中は、グラスのズブロッカをグイと呷る。
「亡くなりましたか、それは…お気の毒です」と、李が悲し気な声を上げた。
「……『アレ』のせいですか?」
「あ?」
里中が瞬いた。
「いや、李さんよ、『アレ』じゃ死にゃしねぇだろうよ。そりゃ、『己の不甲斐なさに世を儚んで自殺した』とかならともかく」
オレぐらいの歳ならまだしも、確かに、あの若さで『アレ』ならな。
死にたくもなるかしらんがよ……。
「冇冇! あんまり大きいの挿れすぎたら、死にますね」
「いや、だから撃たれてだな」
「哎呀! 撃たれた?! 拳銃で?」
「そう、劉山の下部団体同士じゃあるが……まあ、一種の抗争っていうか。結局は本家が、諸々全部押さえちまって『闇から闇』だから、真相は分からずじまいってトコなんだが……」
と、しみじみ語りながら、里中が、ハッと目を剥いた。
「って……『挿れすぎ』って、なんなんだ、李さん?!」
「だから、その人、『アレ』だったんでしょう?」
……?
「里中さんの家にあった、あの大きいの。あんなの挿れてたら死んじゃいますね。『後ろ』は小姐の『アソコ』みたいに広がりませんから。ほどほどにしないと。ホント、アレは大きすぎました、あのオチンチンは大きすぎですね」
「え? いや、李さんよ……そうじゃなくて。オレが言ってんンのは、そっちの『アレ』じゃなくて、『アレ』だっつうんだ」
李が目を丸くする。だが、すぐに、
「嘩……そうですか、そっちの『アレ』」と、猛烈に合点のいった顔でコクコクと頷く。
「『アレ』ね、係呀、里中さんとおんなじ方の『アレ』、仲間」
一周回って背後から刺されることになり、里中は、グッと唸ってうなだれた。
李が、里中の顔を覗き込む。
「ええっと……それで、最近の里中さんの『元気』の方の話ですけど」
「え、あ……まあな、その、アレだ。『改善の兆し』がよ、全くないワケじゃないんだがな。朝なんかは、こう……な? イイ感じの時も増えててよ。ただ、その」
「唉、持続しない、そうですね?」
「……おう」
シンと、部屋に沈黙が落ちた。
手にした茶をグビリと飲み下し、李がおもむろに里中へと向き直る。
「……里中さん、マッサージ、しますか?」
「え、あ?」
「玲姐の、お礼です」
マッサージ――
たしかに、なんか一応、効果があるっていうか。
というか、アレが一番、効果があるのかもしらんな。
クスリ飲んだって、うんともすんとも、どうにもなりゃしなかったのが。
少なくとも、朝勃ちはするようになったし、一応は、挿入までこぎつけられるようになったしで……。
そう、もう「あと一息」ってとこなんだ。
あとちょっとで――
「じゃ……まあ、いっちょ、頼むかな、李さんよ」
気づけば。
里中は、そんな風に返事をしていた。
「好呀! じゃあ、始めましょう」
きっぱりすっぱり、そう告げると、李は、床に落ちていたサンタ帽を拾ってかぶり直す。
「え? いや、李さんよ、帽子は要らんだろう? 別に……」
もはや何に戸惑い、何に恥じらったらいいのかを完全に見失いながらも、その点についてだけは、里中も冷静にツッコミを入れる。
だが、李は二ッと盛大に笑顔を浮かべ、
「聖誕快樂! Merry Christmas!」
と、やたら賑やかに連呼して、すっくとソファーから立ち上がった。
(聖誕快樂! 劇終)
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