聖誕快樂!(エピソード完結済)

11/11
316人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
「多分……ソイツ、『アレ』だったんだろうよ? だから、あんなモンが」 「……(えええ)? 『アレ』ですか」  李が、軽く顔をしかめた。 「そう、『アレ』だ。まあ、それは『そう』としてだが。その白石っちゅうヤツ、気の毒にまだ若い身空でおっちんじまってな」  言って里中は、グラスのズブロッカをグイと呷る。 「亡くなりましたか、それは…お気の毒です」と、李が悲し気な声を上げた。 「……『アレ』のせいですか?」 「あ?」  里中が瞬いた。 「いや、李さんよ、『アレ』じゃ死にゃしねぇだろうよ。そりゃ、『己の不甲斐なさに世を儚んで自殺した』とかならともかく」    オレぐらいの歳ならまだしも、確かに、あの若さで『アレ』ならな。  死にたくもなるかしらんがよ……。 「冇冇(モウモウ)! あんまり大きいの挿れすぎたら、死にますね」 「いや、だから撃たれてだな」 「哎呀(アイヤ)! 撃たれた?! 拳銃で?」 「そう、劉山の下部団体同士じゃあるが……まあ、一種の抗争っていうか。結局は本家が、諸々全部押さえちまって『闇から闇』だから、真相は分からずじまいってトコなんだが……」  と、しみじみ語りながら、里中が、ハッと目を剥いた。 「って……『挿れすぎ』って、なんなんだ、李さん?!」 「だから、その人、『アレ』だったんでしょう?」  ……? 「里中さんの家にあった、あの大きいの。あんなの挿れてたら死んじゃいますね。『後ろ』は小姐(おんなのひと)の『アソコ』みたいに広がりませんから。ほどほどにしないと。ホント、アレは大きすぎました、あのオチンチンは大きすぎですね」 「え? いや、李さんよ……そうじゃなくて。オレが言ってんンのは、そっちの『アレ』じゃなくて、『アレ』だっつうんだ」  李が目を丸くする。だが、すぐに、 「(ほわぁぁ)……そうですか、そっちの『アレ』」と、猛烈に合点のいった顔でコクコクと頷く。 「『アレ』ね、係呀(はい)、里中さんとおんなじ方の『アレ』、仲間」  一周回って背後から刺されることになり、里中は、グッと唸ってうなだれた。  李が、里中の顔を覗き込む。 「ええっと……それで、最近の里中さんの『元気』の方の話ですけど」 「え、あ……まあな、その、アレだ。『改善の兆し』がよ、全くないワケじゃないんだがな。朝なんかは、こう……な? イイ感じの時も増えててよ。ただ、その」 「(あぃ)、持続しない、そうですね?」 「……おう」  シンと、部屋に沈黙が落ちた。  手にした茶をグビリと飲み下し、李がおもむろに里中へと向き直る。 「……里中さん、マッサージ、しますか?」 「え、あ?」 「玲姐(リンジェー)の、お礼です」  マッサージ――  たしかに、なんか一応、効果があるっていうか。  というか、アレが一番、効果があるのかもしらんな。  クスリ飲んだって、うんともすんとも、どうにもなりゃしなかったのが。  少なくとも、朝勃ちはするようになったし、一応は、挿入までこぎつけられるようになったしで……。  そう、もう「あと一息」ってとこなんだ。  あとちょっとで―― 「じゃ……まあ、いっちょ、頼むかな、李さんよ」  気づけば。  里中は、そんな風に返事をしていた。 「好呀(ホウア)! じゃあ、始めましょう」  きっぱりすっぱり、そう告げると、李は、床に落ちていたサンタ帽を拾ってかぶり直す。 「え? いや、李さんよ、帽子は要らんだろう? 別に……」  もはや何に戸惑い、何に恥じらったらいいのかを完全に見失いながらも、その点についてだけは、里中も冷静にツッコミを入れる。  だが、李は二ッと盛大に笑顔を浮かべ、   「聖誕快樂(しんだぁーんふぁいろっ)! Merry Christmas!」   と、やたら賑やかに連呼して、すっくとソファーから立ち上がった。 (聖誕快樂! 劇終)
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!