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ふたりの少年。
小国でも自然の多いスラドでは、狩猟や釣り、木の実や山菜採りなど、自然と共生した生活を送っていた。無論、大規模な森林伐採などもっての他で、建物も木々に隠れるように建てられている。彼らは昔から同じ生活をしてきたので、道や電気がなくとも、綺麗な川や星の見られる土地を気に入っていた。
変化が訪れたのは、八年前。突然NRAの襲撃を受けて村を破壊され、彼らはもはや廃墟と化した博物館を占領し、そこを反政府軍の基地とした。元々は成人した者たちが戦っていたが、内戦が激化してくると、より軍事力を求めて活動を開始。近くの村や難民キャンプを襲っては子どもを含めた人々を連れ去り、兵士とした。
それによって、基地には十歳の子どもをはじめとする者たちが集まっており、日々訓練を重ねていた。
基地の中で、ぱしゅっ、と銃声が響いた。身長の三分の一ほどの銃<AK47>を抱え、引き金を引いたのは、十歳をいくらか過ぎたくらいの少年だった。薄い茶色の短髪を揺らし、反動に耐えている。
「……まだ、木の実にも当てられないのか?」
呆れた口調でそう呟いたのは、銃を持つ彼よりも一、二歳年上の少年だ。片手を腰にあて、もう片方の手で軽く前髪をかきあげる。肩まで伸びた髪は茶色で、所々はねている。
彼の金茶色の瞳は、たったいま、実をつけた木を貫いていった銃弾の去った方を眺めている。
「これは遊びじゃねえんだ。戦場ではさっさと撃たねえと、殺されるぞ」
「……わかってる」
少年・セグ=レイフィスが自分を見据えたのを知っても、銃を持った彼ーーーーリーフ=アルヴァンは視線を変えぬまま答えた。息を整え、地面を見つめる。
「だけどお前、口と行動が伴ってないぜ」
「!」
鋭い指摘に、リーフはびくりと小さく震え、反射的にセグを見る。冷たささえ宿る瞳が、じっとリーフをとらえていた。
「「人を殺したくない」……そんな意思が見え見えだ。いい加減、その弱さも捨てるんだな」
言い残し、セグはくるりと身体の向きを変え、建物へと戻っていく。
「……………………」
振り返らずに去っていく背中を、リーフは複雑な思いで見送る。
リーフがここへ来たーーーー否、連れてこられたのは、つい一週間前のことだった。両親をHIV<エイズ>で亡くし、弟をも流れ弾で失い、彼はストリート・チルドレンとして暮らしていた。
しかし、町に軍隊が現れたという噂で、リーフは難民キャンプへ避難しようと荒れた町を走った。その時に兵士に見つかり、銃をつきつけられ、基地へと連行されたのだ。そこでセグを教育係兼監視役につけられ、現在に至る。
もう何度も戦場へ行って戦ったらしいセグとは違い、リーフは戦ったことなどなかった。与えられた銃には慣れてきたが、「人を殺す」と考えると、彼はどうしても躊躇ってしまうのだった。無論、殺すか殺されるかの世界では、それが甘さなのだと判っている。
だが、リーフが戦場へ駆り出されるのは明日だ。覚悟を決めなければならない。
肩にかけた銃を身に寄せ、リーフはぎゅっと拳を握った。
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