定まらぬ覚悟のままに。

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定まらぬ覚悟のままに。

翌日。リーフが、戦場へ行く日がやってきた。 この軍では、子ども兵は二人一組が基本らしく、リーフはもちろんセグと一緒だ。その方が誰がいなくなったのか、判りやすいからだろう。 リーフは唇を引き締め、銃を強く握っていた。隣にいるセグはちらりと横目で見たが、彼はなにも言わず、すぐに正面に視線を戻す。初めて戦場に向かうのはリーフだけではないし、皆似たようなことをして恐怖を押し隠しているからだ。 森を歩いている時に無駄口を叩く者はおらず、拓けた場所に出ると、軍は左右へと散った。草影や木に身を隠し、銃を撃つ。 「……………っ!」 草影に屈み、リーフはわずかに震える手で引き金を引いていた。弾は草を散らすのみで、敵に当たる気配はない。セグは前方に銃口を向け、迷うことなく発砲する。すると、「うっ」と小さな呻き声が聞こえ、銃弾は飛んでこなくなった。 彼は素早く身を翻し、地面に撃ち込まれた弾に見向きもせず次の標的を定めた。 子どもとは思えないほどの冷静さと正確さ、そして冷酷さだった。政府軍兵士はこちらと同じように草影に身を潜め、位置など判らないというのに、セグは弾の飛んでくる方向から相手の位置を目測し、弾を放っている。 リーフは初めて見るセグの戦いに、尊敬の念さえ抱いた。だが同時に恐怖も感じ、彼は身震いする。戦っているセグの瞳には、まるで世界を呪うかのような光があったのだ。よほどの過去を背負っているのだろうが、リーフはまだ彼のことをなにも知らなかった。 「!」 近くで銃声が響くのと、リーフが腕に痛みを感じるのはほぼ同時だった。見ると、左腕に血がにじんでいる。彼は慌てて相手を確認し、銃を構える。 傷が痛み、手が震えたが、リーフは手に力を込めた。 ーーーー殺さなければ、殺される。 次は腕では済まされないと、頭では判っていた。 <……………っ! フォル……っ!> 記憶が一瞬だけ甦り、リーフは思いっきり引き金を引いた。おそるおそる目を開けた先にあるのは、血を吹き出して仰向けに倒れゆく政府軍兵士の姿。 「……あ……」 鮮やかな赤に、リーフは目を見開いて固まる。いままでは、草などに隠れて見えなかったが、いまは相手の前に障害物はない。 心臓を撃ち抜かれ、おそらく即死だっただろう男を数秒見つめ、リーフは衝動的に後ろの草影へ潜り込んだ。 「……………っ」 がくりと両膝をつき、リーフは地面に嘔吐した。毎日の食事は、満足に食べられる量ではないというのに、食べたもの以上のものが吐かれている気がした。 胸を押さえ、彼はなんとか呼吸を整えようと努力する。早く、戦場へ戻らなければ。 それから五分もしないうちに、後ろで草を踏む音を聞いてリーフは顔を上げる。振り返ると、セグが立っていた。なにも言わず、ただ無表情でリーフの様子を見ていた彼は、やがてゆっくりとリーフの傍らに屈み込む。 「……殺したのか」 誰を、とは言わなかった。敵と呼ばれる相手は、政府軍しかいない。 リーフが頷くと、セグは短く「そうか」と返した。顔は相変わらずの無表情で、なにを考えているのか判らない。 「戻るぞ」 淡々と告げ、セグは立ち上がる。そのとき、自身の手を取って立ち上がる支えとなってくれたことに、リーフは内心で驚いた。てっきり、呆れのお叱りを受けると思っていたのに、吐いたことを咎める言葉さえない。 草むらから出たふたりは、何事もなかったかのように軍隊に合流し、話をすることもなく基地へと向かった。
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