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休息と不安と。
基地に戻った頃にはオレンジ色だった空も、いまはすっかり日が暮れ、満天の星が輝いている。排気ガスと地上の光でくすんでしまう都会とは違い、森の空には隙間なく星がしきつめられていた。
しかし、基地にいる者たちは“見慣れた”夜空を見上げることなく、部屋で休んでいる。元博物館なだけあって部屋数は多いが、ここもまた二人一組だった。
宛がわれた部屋の中、リーフはセグに怪我の治療を受けていた。
「……おまえ、なにしに戦場へ行ったんだ? 怪我するために行くんじゃねえんだぞ」
感情の籠らない声で、セグは続ける。
「一兵士、しかも子どもが怪我したって薬は出ない。何度言えば学習する? リーフ」
言い終えると殆ど同時に、セグはリーフの腕に交差して巻いた紐を結ぶ。植物の汁を塗り、二枚の葉っぱで怪我をおおって紐で固定しただけの、簡素な治療。
それでもリーフには有り難かったのだが、セグの言葉に目を伏せて呟く。
「……ゴメン」
少し罪悪感があったが、セグは吐いたことについては触れてこなかった。いまも彼は呆れたように小さくため息をついたが、それは怪我のことでだろう。
「今日はもう寝ろ。明日も早いからな」
「……うん。ありがとう」
薄い、汚れた毛布を持ち上げ、顔をこちらに向けて促したセグに、リーフはいろいろな意味をこめてお礼を返した。
少しだけセグのことを知れたのを嬉しく思いながら、リーフも毛布を寄せる。ランプの明かりを消すと、「おやすみ」と言って身を横たえた。
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