🌸いい小説のためのグループ🌸パラレルゲーム第５回

Polaris：作

　彼が倒れ、傍らで何やらブツブツと言っているのを、僕はその横で、ポケットに手を突っ込んでただ見ている。どうしてそれをちゃんと聞いてやらないのかというと、もう彼は殆ど呂律が回っていないからだ。ポケットの中で、そのとき汗にまみれた僕の右手がかたく握りしめているのはトカレフであった。僕は彼を今すぐ楽にしてやるべきかどうか逡巡している。あれ程響き渡っていた蝉の鳴き声もいつしか耳にしなくなった。そろそろ地元では収穫祭に向けた準備が始まる時期だろうと彼は、昨日の夜、遠い目をして言っていた。その昨日がいまの僕にはまるで百年も前のことのように感じる。そうして、果たしてこの戦争はいつの頃から続いているのだろうと、彼が死ぬまでのつかの間、僕は奇妙なことを考え始めた。