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 けれどもミサキは嫌な顔一つ見せず優しく微笑んだ儘、木の台に布団(一応マットレスだが)を敷いただけといった感じの簡素で粗末なベッドのある畳敷きの妙ちきりんな貧乏臭い部屋へ入った。  俺は大いに気恥ずかしくなり、「まあ、汚いとこですけど、ここに座ってください」と言って、「失礼いたします」と丁寧に言うミサキをベッドの縁に腰掛けさせ、その隣に座った。 「いやあ、暑かったでしょう」  この「いやあ」という間投詞に俺は暑いなあという思いの他に凄い美人だなあという思いを無意識に込めたのに違いなかった。 「ええ、お車から出ましたらば大変お暑う御座いました」  まさか、デリヘル嬢がこんな言葉遣いをするとは思いも寄らなかった俺は、ふんだんに漂わす脂粉の香を鼻の中に目一杯吸い込みながら、どう答えようかと須臾の間、戸惑ったが、「誠にお暑う御座いますなあ」と当意即妙に答えた。「お暑いと言えば、この部屋も暑いでしょう」
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