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 事務所の中で俺は不味い事になったと思いつつ班長と浅田が傍観する中、工場長の尋問を受ける事になった。 「浅田さんに嫌味を言ったそうだな」 「ああ、はい」 「何で、そうちょっかいを掛けるんだ」 「いや、確かに今回は俺からちょっかいを掛けたようでもありますが、浅田さんが相も変わらずお節介を焼くからいけないのであって今までのトラブルも全て相手からちょっかいを掛けて来たのが原因で」と俺が言っている途中で、「何がお節介だ!俺は親切でやったんだ!」と浅田が口出しすると、「まあ、浅田さん、落ち着いて」と工場長は宥めた後、「度々トラブルを起こしておいてまだ弁解する気か・・・」と呆れ果て、はあと溜息をついた、その矢先、班長が俺を指差しながら口を挟んだ。 「この人は浅田さんにこれまでずーと変な態度で接して来たんです。何故だか分かりますか!この人は浅田さんが社員達に慕われている事に嫉妬してるんです。だからなんです!工場長!私はもう絶対こんな人と同じ班で働きたくはありません!」  班長の主張に俺は、「浅田に嫉妬?アホ抜かせ!お前の低俗な観点から当て推量するな!俺はお前らの馬鹿さ加減に怒ってるんだ!土台お前らとは癪の種が違うんだ!」と思わず憤慨し、方や工場長はびびりつつ俺とは五年間、同じ会社でやって来たという所縁が一応有るから俺の手前、はあと又しても溜息をつき、腕組みをして目を伏せ、一先ず考える様な格好になった。が、浅田と班長の方に顔を向けた途端、その態とらしさに、にたにたしていた彼らと一緒に思わず吹き出した。そして、「こいつら・・・」と俺が更に憤慨して顔を顰めても俺に気を遣う必要が無くなった工場長は、俺に顔を向けてからも暫しくすくす笑った後、欠伸をする様に息を吐き伸びをして悠々と腕組みを解き、両手を両膝に置くと、落ち着き払って俺に向かって嘲りの笑みを浮かべながら言い放った。 「同僚にあんな事を言われてはもう駄目だな」  ところへ、事務所の奥の部屋に隠れて一部始終を盗み聞きしていた社長と社長夫人が現れ、社長が工場長と入れ替わって座ると、社長夫人が半年前に俺がトラブルを起こした時に書いた「もう二度とトラブルを起こしませんので最後のチャンスをください。もし、今度、起こした場合は責任を取って自ら退職します」という内容の署名入りの誓約書を社長と俺の間の机上に突き付けた。次いで社長が開口一番、年貢の納め時だと言わんばかりに、「もう逃れようがないな」と事実上の首の宣告をした。
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