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一
バブル崩壊後、失われた10年の時期にあり、三十四という歳、而もまともな人間と言うか俗人から見て、それこそ海の物とも山の物ともつかない俺の様な人材を試用期間後正社員採用を前提に雇ってくれる所はそうはない筈であった。
ところが、俺は幸か不幸かS工業というオートバイ部品製造会社に正規社員として勤続する事になり、それが一年や二年では終わらず三年四年五年目へと突入して行った。
S工業に入社するまで職を転々としていた俺にしたらこれは不思議な事であるからその訳を解説すると、まず俺は履歴書を見ながら面接する社長に、「何で日本人なのに派遣で、ずっと働いてたの?」と正社員になるのが難しい御時世にあって、こんな呑気な事を聞かれ、あっ、ここなら採用してくれるかもと直感的に思い、後日、案の定、採用の連絡が来て使用期間後、正社員になれたのだが、矢張り俗人とは馬も反りも合わないのでS工業に就職する前と同様にS工業でも人間関係において何度もトラブルを起こす破目になった。にも拘らず、その都度、注意乃至減俸されるだけで首にはならなかったのである。今までの会社と違って呑気な社長の性格が反映され処罰が手緩かったのだ。
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