曼殊沙華

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案内された部屋の中に入ると其処は机と椅子だけが置かれているこじんまりとした室内だった。 「初めまして、吉田といいます」 既に椅子に座っていた看護師さんらしき中年の女性が私を見てにっこりと笑った。 「始めまして。あの、高梨といいます」 「はい、高梨……智美、さんですね」 「はい……」 その看護師さんは『智美』の部分で声のトーンが落ちた。それに気がついて私が首を少し傾げると看護師さんは事も無げに続けた。 「あぁ、すみません。わたしの娘も智美というのでつい親近感が湧いてしまって」 「そうなんですね。娘さん、おいくつなんですか?」 「今年で24歳です」 「本当ですか? 私と同じ歳です」 「あらあら、益々親近感がでちゃうわ」 そういってとても優し気に微笑む看護師の吉田さんに私は何故か初めて会ったような気がしない既視感を覚えた。 それからバースプランの話になり吉田さんから提示されたいくつかの希望事例を参考に話が進んで行った。 出産方法や陣痛時の過ごし方、分娩時の対応など細かく設定しようとすればキリがない。 「はぁ……なんだか沢山あって迷いますね」 「ご主人と相談される方も多いですよ。今すぐに決めることでもないのでゆっくりと考えてみてください」 「そうですね」 吉田さんの言葉に妙な安心感を覚え私はもっと吉田さんと話がしたいと思った。
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