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私には母親の記憶がなかった。私が生後半年の時に突然家を出て行方不明になったからだ。
母が失踪する理由が思い当たらなかった父は事件性を考え警察に捜索を依頼した。
しかし母の所持品を調べた結果、母子手帳の白紙スペースに書かれていた『疲れました。逃げたい』という走り書きによって事件性はなく、育児疲れによる突発的な家出ということで片付いてしまった。
それ以来仕事で忙しい父に代わり、母の実姉である伯母の手を借りながら私は育った。
物心がつく頃には伯母から母に関することを幾つか教えられた。
母は結婚するまで看護師だったこと。人の世話を看るのが好きで看護師は天職だと言っていた。
子ども好きで面倒見のいい母はよい母親になるだろうと周囲に思われていたこと等々。
母の事を知れる伯母の話は訊いていて愉しかったけれどその反面、だったら何故そんな母が生まれたばかりの娘を置いて姿をくらませたのかと常に疑問に思っていた。
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