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「あの、吉田さんの娘さんはご結婚されているんですか?」
何故かそんな個人的な質問を吉田さんに投げかけていた。すると吉田さんは一瞬顔を歪ませ、そして明らかな作り笑いをした。
そして「……どうなんでしょうねぇ」と小さく呟いた。
その言葉に違和感を覚え、そして何故か嫌な予感がしてしまった。
「あの……もしかして私、不躾なことを──」
訊いてはいけないことを訊いてしまったのかと今度は私が顔を歪ませた。
すると吉田さんは慌てた様子で言葉をまくし立てた。
「いえいえ、違うんです。生きていますよ! ……生きていると……思います」
徐々に歯切れが悪くなる言葉に何か事情があるのだと悟った。
これ以上話を続けても吉田さんに悪いと思い私は話を切り上げ椅子から立ち上がった。
「すみません、私、これで──」
「……捨てたんです」
「え?」
挨拶をして部屋を出ようとした私に向かって吉田さんは呟いた。
「……わたしは……娘を捨てたんです」
「……」
その衝撃的な言葉に思わず体が強張りその場から動くことが出来なくなった。
そんな私を気遣うように吉田さんは傍に来て私をもう一度椅子に座らせた。
「……ごめんなさいね、突然こんな話をしちゃって。でも……何故か娘と同じ名前のあなたに……訊いてもらいたくなったの」
吉田さんが目を伏せ私からの言葉を待っているように思えた。
「えっと……私でよかったらお話、訊きます」
気がつけば吉田さんに向かってそう答えていた。
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