第2章 食料と始まる学校探索

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 ランチルームに入るための扉。そこに背中を当てて抑え込もうとする奈美。ただ、扉に走る衝撃の回数はどんどん重ねられていく。  もう、扉の向こうに例の化け物がいて、扉を破ろうとしているのは言うまでもない。 「……ごめん……うち、余計なことしたかな?」 「いや、大丈夫。喜巳花ちゃんのおかけでお友だちとの約束を思い出させてくれたもの。  本当にありがとう、余計なことをしてくれて」 「ごめんって!!」  そんなやり取りをしてるなか、ここ一番の衝撃が奈美の体を大きく跳ねさせた。 「……そのドア、もう限界きてんじゃねえか?」  さらなる衝撃がドアの窓にヒビを走らせる。 「…………」  奈美がそっと背中を扉から離す。 「……みんな……逃げよっか……ひとまず」  全員に視線を合わせていったあと、手をたたきながら叫んだ。 「みんなダッシュ! よーいドン!!」  奈美の合図とともに、はじけるようにドアから離れる。それと同時、ドアが突き破られ、数体の化け物が廊下に転がり出ることとなる。  まじまじと見れる余裕はないが、赤い毛並みの化け物であることは同じか。  化け物の手から逃げるため、もと来た廊下を全力ダッシュ開始。 「あっ、綺星さん!?」  一樹も一目散に逃げようとしたが、ふと視界に立ち尽くす綺星の姿が入ってくる。  どうしようか一瞬迷ったが、それより先に響輝が戻ってくる。 「新垣! いくぞ! 東も走れ!」  響輝がすばやく綺星を抱えこむ。後ろから来る一体目の化け物が降りかかってくる手を避けつつ駆け出す。  一樹もその追って逃走を続けた。 「……や、……やばない? あれ、思ったより速い!」  喜巳花の言うとおりだ。  視聴覚室で見たときのイメージでは、すばやく動く雰囲気はなかった。だが、実際に追いかけられたら、その甘さを痛感させられる。  身体が一樹たち小学生よりずっと大きい化け物たちの疾走は、どうあがいても勝てそうになかった。  先頭でみんなを先導するように走っていたのは奈美。だけど、先頭を並走していた喜巳花に明け渡し自分はピタリと止まる。 「一樹くんは走り続けて」  止まることはない一樹の足が停止した奈美の横を通過する。 「おい、東! 新垣を頼む! パス!」 「……え? ぉ? ぉお!?」  続いてしんがりを走っていた響輝がかかえていた綺星を文字どおり放り投げてきた。  わけがわからないまま後ろを振り向き、飛んでくる綺星を受け取る 「いいぞ。そのまま走れ!」 「いや……、僕じゃ人をかかえて走るなんて……!?」  綺星の全体重が未発達な自分の体に食い込んでくる。そんなのかかえて走るのは無理だ。 「……でもないな」  むしろ余裕で綺星をかかえて走り続けられている。  ウエストポーチでできたローブのシステムがパワーのアシストをしてくれているわけか……。  すげーな、いやほんと。さすが、システム様だ。 「おぉ……おぉぉ……」  綺星は状況に対して感情が追い付いていないのか、妙な声を漏らす。  酷なこと言っていいなら降りて自分で走れ、自分にそんな余裕はないと言いたいが、……ここはもうこれでいいや。  一方で奈美と響輝は化け物相手に反撃を試みていた。  基本的に一樹たちの想定通り、これらはあの化け物を倒すこと前提のシステムであるらしい。  ふたりは迫ってくる化け物たちに一撃を食らわせていた。  だが……、 「数が……多ない?」  ふたつ目の角、通常教室棟まで逃げた喜巳花が呼吸を整えつつ廊下に顔を出す。一樹も同じように見た。  廊下の途中で化け物と対峙するふたり。対して化け物は……一……二……五体以上? 「あっ、しまっ!」  観察をしているとき、ふと奈美の脇を通りすぎた化け物が一体、こちらに向かって走ってくる。 「くっそ!!」  このシステムがやつらを倒す前提のものなら問題ない。一体程度なら十分戦えるはず。  とにかくがむしゃらに化け物に向かってこぶしを振う。  一樹のこぶしは化け物の腹あたりにクリーンヒット。その威力は一樹の想像を超えて発揮され、化け物を奥へ押しやった。 「どりゃ! 見たか!」  うまくできた自分を奮い立たせるためのガッツポーズ。  だが、それを決めたとき、既に二体目が奈美と響輝の間を通り抜けこちらまで突っ込んできていた。  乱暴に手を振りかぶってくる化け物に対して一言。 「……一体倒したから、第一ステージクリアってことに……なりませんか?」  で、精一杯のスマイルを向ける。 「……だよね!?」  容赦なく攻撃が飛んでくるところ、かろうじて後ろに飛びのいた。  そのまま、転がりつつ化け物と距離をとる。 「一樹、なにやってるん?」 「遊んでるように見える!? だとすれば遊びに付き合ってよ!」 「よっしゃ! まかしとき!」  さらに迫ってくる化け物に対して一発蹴りを入れる喜巳花。それにより化け物は後ろに崩れ落ちる。  だが、一樹が攻撃した化け物が逆に立ち上がっており、こちらに再度攻め込もうとしてきた。 「ちょっ、待ってや!?」  化け物が振りかぶった腕が喜巳花に直撃。軽く後ろに吹き飛ばされる。 「……いった……、なにこれ……」  ……やはり、数が多い。戦うことなんて初めての一樹たちでは、複数の敵を相手にするのはあまりに分が悪い……。  気にする余裕もないが、前線を張る奈美と響輝も追い詰められている。  ……まずい、どうすればいい?  綺星と一緒に曲がり角で隠れていたライトが近づいてくる。 「東さん、僕に……」  なにか声をかけようとしてきた。だけど、そのライトの視線は一樹から化け物のほうへと向けられる。いや……違う、その背後……。  直後だった。 「“変身”」  化け物の腹部から何者かの手が貫かれて出てきた。
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