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突如として化け物の腹が何者かの手によって貫かれる。
やられた化け物が姿勢を崩すなか、その後ろでその攻撃を放った人物が立っていた。
濃い赤色のパーカーに黒いスラックスを履く女子。バシッと切られたショートヘアがボーイッシュなイメージを駆り立てる。
しかし、その女子には大きな異変があった。
だんだん、顔を始め皮膚が一部青色に変色、目ではっきりとわかるスピードで赤い毛並みが手の甲やほおなどに広がる。
そして、爪が鋭く伸びていく。
「……あ……、え?」
謎の女子の攻撃により瞬間的な窮地からは脱出できた。
だけど、それ以上に目の前のいるその女子がわけのわからない存在で困惑する。
謎の女子はすぐ近くにいるももう一体の化け物をにらみつける。化け物はその鋭い視線にひるむことなく女子に襲い掛かった。
だが、女子はそれを最低限の動作で避けると鋭く伸びた爪で化け物を大きく切り裂いた。
一樹たちの目の前で脅威となっていた化け物が倒されていく。
音を立てて崩れ落ちたその化け物はそのまま立ち上がることはなかった。
ふと気がつけば、その女子の後ろには奈美と響輝が立っていた。
さらに後ろをのぞくと、そこには既に化け物が倒されたあとの光景があった。
見る限り、この女子がすべての化け物を瞬時に倒したということになる。
奈美と響輝が謎の女子の横を警戒しながら通りすぎ、一樹たちの側につく。
奈美は一樹たちをかばう立ち位置に入り、謎の女子をじっと見た。
「……君は……何者なのかな? 言葉はわかる? ……君は……人間なの?」
謎の女子は赤い毛が生えた自分の腕を見ながら言う。
「……たぶんな。わたしも自分が人間だとは思っている」
しゃべった……。
見た目はあの化け物に近くなっている。だが、一樹の見間違えでなければ、最初は普通の人間の姿だったはず。
姿が変わっていったのは彼女が「変身」の言葉を発したあとのこと。
今度は響輝が謎の女子をにらむ。
「……で、お前はなんなんだよ?」
「わたしは柳生文音(やぎゅうあやね)……、五年生。何者かという質問には答えられるほどのものはない。
言えるのは、君たちの立場とたいして違いはない存在だ、というぐらいだな」
少し意味深げに言葉を返してくる謎の女子、柳生文音。そんな彼女の存在に、ただただ圧巻されている。
だが、それと同時、視界の端……文音の背後に倒しきれていなかった化け物の姿が目に映る。
「あっ、後ろ!?」
「知っている」
一樹の警告に対して微動だにせずそう答える。
そして、化け物が文音の背後を襲おうとする直前だった。
文音はその後ろを確認することなく左足を軽く踏み込む。そのまま一気に自身の右足を後ろに向かって蹴り上げた。
その見事な回し蹴りは的確に化け物の顎を打ち砕き、壁にたたきつける形で決まる。
化け物が完全に沈黙すると同時、その右足が音もなくゆっくりと床に降ろされる。しばらくの残心のあと、姿勢を元に戻した。
やがて、文音の顔を始めとした皮膚の青く変色していた部分が、自身のほかの肌と色、ペールオレンジと同化していく。
手の甲やほおの一部にまで生えていた赤い毛もあわせて消えていった。
戻った姿は一樹たちと同じ人間そのものだった。文音は変化が終わりきるより先に、自身が着るパーカーのフードをそっと頭にかぶせる。
「じゃぁな。十分に気をつけろよ」
それだけ、言い残しふとその場を去ろうとする文音。だけど、そんな文音に奈美は声をかける。
「待って! あ、文音ちゃん……だよね? 君もあたしたちと同じなんだよね? じゃぁ、一緒に行動しようよ?」
奈美の提案に対し、文音はフードをかぶったまま不気味な笑みを浮かべる。
「……あたしのさっきの姿を見て、一瞬恐怖を抱いていた君が言うのか?」
「……そ、それは……」
奈美は戸惑い一歩後ろに下がる。それが図星であることを周囲に伝えるには十分だった。
しかし、彼女に恐怖を抱いたのは一樹も同じこと。
人の姿だったのに目の前で人ならざる姿へと変わっていったのだ。
なにより、その姿が化け物と少なからず似ていたからこそ、その感情が大きくなる。
それは、素直に信用しろというにはあまりに厳しい。
「待てよ三好……。悪いけど、俺はそれに賛成なんてできないぞ?」
響輝も一樹と同じ意見だったらしく、戸惑う奈美にはっきりと言った。
「そもそも、あのさっきの化けた姿はなんだったんだ?」
文音は小さく響輝がはめるシステム、リストバンドを指さす。
「君たちだって似たような力を持っているだろ? それと同じだ」
「同じ? あまりに毛色が違いすぎじゃねえか?
人が変化したんじゃない、化け物が……人の姿に化けているって可能性もあるんじゃねえのか?
俺たちはまだなにもわかってない状況だしな。油断させて……」
「ちょっと、響輝くん。……勝手になに言ってるの?」
強引に響輝の口を封じるように声を張り上げる奈美。
響輝はそれを受けて、納得はできないという雰囲気を出しながらも、口を閉じる。
しかし、そんなことをしているうちに、文音は後ろを向き歩き始めていた。
「安心しろ。そもそもわたしは君たちと行動をともにする気はない。君たちは君たちでがんばるといいさ。
わたしはわたしのやり方をするだけのこと」
そう言い残し、ひとりで特別教室棟のほうへ消えていった。
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