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目覚めてから初めての夜が来た。
三好奈美は南側の窓からとうの昔に太陽など落ち、闇に染まった外の世界を見ていた。あたりに明かりというものはなく、外は完全に闇に包まれてしまう。
まったくもって信じられない話ではあるが、このどこまでも続きそうな闇を見ればふと考えてしまう。
「……人類滅亡……」
質の悪いジョークだ。笑えもしない。人類が滅亡したというのならば、もっと世界はとんでもないことになっているよ。
……いや、人がいないからこそ、静かなのか……。
「三好、じゃあとりあえず俺さきに寝るけど。なにかあったらいつでも起こせよ。つらくなったら交代するからよ」
「うん。ありがとう。交代まではゆっくり休んでて」
夜、当然奈美たちは睡眠をとる時間だ。だけど、全員がなにも考えず一斉に寝るのは危ないと考え、見張り番を立てることにした。
ひとまず交代でひとりは目を開けておくという形になっている。
「じゃぁ、電気消すよ」
図工室の照明スイッチにまで手を伸ばす。だが、ふとスイッチに手が触れたところで少し止まる。
ここで照明すべてを消すのは危険だし……、そもそも暗闇で起きているのはつらい。半分だけ照明を消して、明かりは残しておくことにしよう。
半分の照明が落ち、響輝も横になったのを確認してまた、南側の窓に視線を向ける。そこでふと通常教室棟のほうに明かりがあることに気が付いた。
廊下越しで、ある部屋の明かりが漏れている。
「……そういや、視聴覚室の電気、つっけぱなしだったか……」
だからと言って、こんな夜中にわざわざ照明を消しに行く気にはなれない。そのままでもいいだろう。
照明のつけっぱなしでわざわざ怒るような人はいない。いてくれたら、むしろありがたいレベルだ。
一応、懐中電灯も見つけてはあるが、だからと言って無理に使う必要もあるまい。夜中の行動は控えるに越したことはないはず。
一通り窓の外で異常がないことを確認したあと、今度は廊下側の窓で椅子を用意し座り込んだ。
もし、化け物が来るとすれば廊下側だ。なら、見張りとしているべき場所はここ。
考えたくもないが、もし窓から化け物の姿が見えた場合、飛び出して戦闘か……。いや、さすがに全員を起こすか。
「……にしても……ふぁあ……あ」
思わずあくびが出てしまう。やはり、相当眠気はたまっているらしい。この時間見張るため昼寝は取っていたのだが……どうも……。
夜で全員が寝てしまえば、静けさが最高潮に達するのもまた原因か。
目をこすり、首を何度も振って意識を保つ努力をする時間が続いた。
「あの……奈美ちゃん……奈美ちゃん……」
遠くから声が聞こえる気がする……。
違う……耳元だ……
「うん? えぇ? ……あぁ……」
少し遅れて綺星に声をかけられていたのだと理解。慌てて顔を上げて首を大きく振る。
「寝てない。……あたし別に寝てないよ」
「…………」
……綺星にものすごいジト目で見られた。
「……で、どうしたの?」
顔を落とし綺星を視線を合わせて聞く。綺星は少し顔をうつむかせ、遠慮がちにボソリとつぶやいた。
「……その……トイレ」
「……あぁ」
そりゃぁ、声をかけるわ。夜中のトイレだけでなく、こんな状況なのだから……あたしだってひとりで行こうとは思えない。
「いいよ。ちょっと待ってね」
座っていた椅子から立ち上がり、寝ている響輝を起こそうとする。だけど、スヤスヤと寝ている響輝の姿を見て思わずためらってしまった。
代わりに、壁にかけられた時計を見る。
寝始めたのは十時で、いまは一時。この三時間なにも起きていない。廊下に化け物がうろついている感じもないし……。
実は思っていたほど心配しなくてもいいのかもしれない。
「行こっか」
綺星の手を取り、音を立てないよう静かに廊下を出た。
懐中電灯を片手に廊下を照らしつつ足を進める。
トイレがあるのは通常教室側のほうだけだ。三階なら視聴覚室の奥がトイレの場所だった。ついでに照明も消せるし、一度行っている場所なのだから、そこでいいだろう。
歩いていると、ふととなりで綺星が口を開いた。
「ねぇ……屋上には……出られないのかな?」
「屋上? ……考えなかったな……」
そういえばそうだ。三階……すなわち最上階であるはずだが、階段は二階に向かうほうだけでなく、上側にもある。すなわち、屋上に出られる階段はあるということだ。
「でも……どうだろう……。あたしの記憶じゃ、普段でも立ち入ることはできなかったと思うからね。
……鍵がかかってて出られない気がするな……。
でも、確認はしておくべきだね」
確認をするなら明日かな? そんな風に思いつつ、足はもうすぐ視聴覚室に付くころになっていた。
最初、視聴覚室から漏れる明かりにかなりビクリとしたが、冷静に深呼吸して歩み寄る。
化け物にも遭遇しないし……ひとまずは安心かな……。
だが、視聴覚室の前を通る直前だった。ピタリと綺星が足を止める。そのまま、ぎゅっと奈美の手を両手でかかえるようにして近づいてきた。
「……ど……どしたの? なにかいた?」
質問するも綺星は握る手を強くして必死にしがみつくばかり。
「や……やめてよ……」
まるで幽霊でも見たかのような反応。こんな雰囲気じゃおかしなものが見えてもおかしくないのだから、そんな反応されたらマジで怖い。
年上として怖がる仕草は意地でも見せたくないが……。
「……ねぇ……聞こえない?」
「聞こえる? ……なにが!?」
恐怖のあまり、思わず強い口調で聞き返してしまう。口から出たあと失態に気づき口をふさぐが、それも綺星はまったく気にしていないもよう。
むしろ、それ以上に気になることがあるようで、必死に奈美の服を引っ張る。
「……ほら……カンカンって……聞こえない?」
そこまで言われて、奈美は少し冷静さを取り戻すことができた。代わりに耳に神経を研ぎ澄ませる。すると、たしかに耳に音が入ってきた。
「……たしかに聞こえる……。なんだろう……」
まさにカンカンという音。一定の間隔でなり続ける音。なにかがたたかれている音だとは思うけど……。
奈美も深刻になってその音に聞き言っていたが、ふと綺星の姿を見て意識を彼女のほうに向けた。
「大丈夫だよ。気にしなくて大丈夫。さっさとトイレ済ませてこよう」
わざと大げさに笑みと明るい口調で綺星の背中を軽くたたいた。
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