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第2章 食料と始まる学校探索
綺星も落ち着いてきたらしい。
完全に泣き止んだというわけではないが、もう声は上げなくなり、黙ってたれてきた鼻水を小さくすする。
「……どうかな。みんなも……少し落ち着いたかな?」
奈美は一度この場にいる全員一人ひとりに目を合わせていく。全員の顔を確認しおえると、しっかりと首を縦に振った。
「じゃぁ、ちょっと気分でも変えよっか。準備室にはほかになにかあった?」
「あぁ、あった、あったで! もうひとつそのアーマーと似たようなもんあったし、ほかにもなんかあるかも。
うち、今度こそ見てくる!」
まるでさっきのやり直しをするように、もう一度準備室に向かって駆け出す喜巳花。
遅れて響輝が「俺も行く」と言ってアーマーを解除し準備室に入っていった。この状況での単独行動はまずいと判断したのだろう。
しばらく彼らを待っていると準備室からひとつダンボールをかかえた響輝が出てきた。
小学生の響輝が両手で十分かかえることができる程度の大きさ。
「なかなか、いいもの見つけられたよ」
後ろに喜巳花がついてくるなかで、そのダンボールは一樹たちが集まる中央の机に置かれた。
蓋が開けられその中身が見えるようになる。
真っ先に奈美がその中をのぞく。
「……缶? ほかにもなんかあるね」
奈美がダンボールの中にある缶のひとつを引っ張り出してくる。その缶の柄を見て、一樹はピンと来た。
「これ、乾パンだ」
つまり、食料。人がここで生きていくために必要なもの。だけど……普通に考えてそれが視聴覚準備室に置いてあるというのは……。
「……これなに……? クッキー?」
綺星がじっと乾パンの缶を見てくる。と、同時に小さくおなかが鳴った。
「……クッキー……か。言ってしまえば似たようなものかな。……食べてみる?」
缶が開けられ、とりだされたのは本当に乾パンそのものだった。
別に一樹だって直接本物を見たことはなかったが、それこそ本から得た知識で十分わかる。
綺星が乾パンをつまみ小さく一口かじる。しばらく口の中をもごもご動かしていたが、やがて顔をしかめる。
「……おいしくない」
「ま、だろうな。ザ・非常食だし」
こういう非常食には美味しさより求められるものがある。それに関しては仕方がない。
「ふ~ん、どれどれ」
奈美が「あたしも」と一個口に放りこむ。そして、しばらくかむとたちまち表情をゆがめた。
「……うん……なんというか……水分ドロボー……」
一樹もひとつ口にしたが、その感想は奈美と同じだった。
食べられなくはないんだけど……、ポンポン口に放りこみたいとは思えない感じ。
「はい! そんなみなさんにオススメの商品!」
喜巳花が少しイントネーションを一樹たちが使う共通語に変えてダンボールに手を突っ込む。そしてペットボトルを取りだした。
「こちら、なんとタダの水! みなさんの喉を潤す、すてきな商品となっております!
あ、タダって変哲もないって意味と無料って意味のふたつかかってるで」
「説明したら台無しじゃねえか」
喜巳花と響輝の漫才が終わるより先にペットボトルをふたつ奪い取った奈美。ひとつを綺星に渡しつつ、自分は一気に水を飲んだ。
「ふぅ、ありがとう、わざわざ商品説明してくれて。おかげでいち早く水を飲みたいという気分をより高めてくれたよ」
と言いつつ、さらに乾パンを口に入れた。
「……そりゃよかった。食事も進んでるやん」
一樹も一本ペットボトルをもらう。
「ところで、これ……本当に食べてよかったのかな?」
「……いまさらだし……いいんじゃね? 文句言われても状況説明すりゃわかってくれるだろうよ」
響輝もそう言いつつペットボトルの水を口につけた。
すると、ライトが乾パンをつまみつつダンボールに手を突っ込んだ。
「乾パン以外にも食べ物は用意されているみたいですね。缶詰、手で開けられるやつ見たいです。
缶切りないから開けられないというオチはなさそうです」
と言いつつひとつ缶詰の蓋が開けられた。同時にふっと匂いが少し広がる。
「あ、これやきとりやん。うまそう!」
喜巳花がさっとライトが持つ缶詰のやきとりをひょいとつまみ口に入れた。
「高森さん……ワイルドですね。僕が取ったやつをつまみ食いしたのは怒りませんから、せめてはしを使いましょう?
用意されてるんですから」
「うん? おぉ、ホンマや!」
ダンボールをのぞきこみ、割りばしを取りだした。……本当に用意が無駄にいいもんだ。なんの意図があってこんなものを……。
「あっ、菓子もあるやん!」
「え? おかし!?」
喜巳花の言葉にいち早く反応した綺星。かじっていた乾パンなど放り投げ、ダンボールに近づく。
「……まぁ、甘いやつじゃないけど。クラッカーやね。でも乾パンよりはうまいんとちゃう?」
……クラッカーか。やはりこれもそれなりに保存がきくものだ。これはだれが見ても長期保存を考えられた食料……。
綺星はお気に召したようで水と一緒にパクパク食べ始めた。塩味がきいているだけでもだいぶ違うのだろう。
「あぁ、せや。ちょっと待ってて」
急に声を上げた立ち上がったのは喜巳花。クラッカーをひとつ口に入れて再び準備室に向かう。
「あっ、ひとりで行動するのは……」
「ええからええから! 待っててな」
奈美の警告を軽い感じで受け流し準備室に入る。
でも、ここで必要以上に警戒心をあおるよりは、いまの雰囲気を大切にしたいと考えたのだろう。それ以上言うことはなかった。
代わりに、ダンボールの中身をのぞく。
「このダンボールにある食糧は……せいぜい一回分かな……」
とつぶやくのだが、直後少し顔の表情に曇りが見えた。
その姿を見て一樹も同じようにのぞく。
「奈美さんも気づいた? 違和感に」
「……うん……まぁ」
ダンボールに残されたのは一本のペットボトルと割りばしだ。ここにいる六人は全員がひとつずつとったはず。
つまり、元は七人分の想定だったと考えられる。
「これって……たまたま七人分の非常食が用意されていて、あたしたちは六人でたまたま事足りた、って考えていいのかな?」
「……都合がいい解釈な気がするね。むしろ、六人というのはあらかじめ想定されていたことで、ひとり分の予備。または……」
「……あたしたちのほかにもまだ、だれかいる?」
『楽しい楽しい、ドレスアップシステム講座~!!』
「「今度はなに!?」」
唐突に音声がなり、スクリーンにタイトルロゴがポンと表示される。
遅れて準備室からウエストポーチみたいなものを両手に持ち、こちらに戻ってきた。
「ほら、みんなでご飯食べるんやし、テレビ見ながらワイワイしょぅやー」
「あれ、テレビなの!? テレビなのか?」
テレビとは程遠いそれには、笑顔のお兄さんが登場したのだった。
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