第2章 食料と始まる学校探索

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 喜巳花のおかげで窓を割るのが不可能であることを知ることができた。本当に素晴らしい功績だ。  一方で食料もほとんど食べきっていた。 「……これ……食べきってよかったのかな? ……なにも考えずパクパク食べ過ぎた気がする……。失敗したかも……」  ダンボールをのぞきながらボソリと奈美がつぶやく。 「……それなら……以外と、心配する必要はないかもしれないぞ?  ……“いまは”っていう言葉は付け足さないといけないかもしれないけど」  響輝がふと意味深なことを言い出す。奈美が「どういうこと?」と質問するが、それより先に準備室に入っていた。  やがて、中から一枚の紙を持ってきた。折りたたまれたその紙を机の上で広げる。 それは、この学校のものと思われる校内地図だった。  六人がその地図を囲むように立ち並ぶ。 「ここは視聴覚室……ってことは、現在地はここだよな。  この地図によるとここは三階ということだが、……窓から見る限りそれは間違いないと思っていい」  視聴覚室は南東の端に位置している。そして、建物全体がコの字を書くような形になっている。  コの下部分、すなわち南の部分が通常教室棟。上の部分は特別教室か……。  そのふたつの棟を結ぶ東側の渡り廊下にもこの視聴覚室を始め、いくつかある。  一見するとただの地図に見えるが、ひとつ明らかにおかしいものがある。 「……このパンのマークって……なに?」  そう、パンのマークが付いているのだ。  ランチルームは別にあるため、食べる場所を示すものではないのはたしか。給食室も別にある。  パンマークは図工室や多目的ホール、四―二教室とか……、あとは……ここ視聴覚室にもマークはつけられている。 「……まぁ、この状況では考えられる答えはひとつ。食料のある場所だと俺は考えている。  現に、ここ視聴覚室に食料はあって、マークも付いているしな」  そういうことになる……。つまり、一樹たちがここに閉じ込められる前提で、食料が置かれて、なおかつ……こんな地図を用意……。 「……でも……なんでこんなことになってるん? ……いや、ごめん、無駄な質問やったね……」  喜巳花は質問してすぐに愚問だと気づき首を横に振る。代わりに地図をいま一度見直し始める。 「……ホンマに食料がある場所かどうかは……実際に行ってみやなわからんやんな……。  このままここにいても腹減るだけやし……やっぱり移動するしか……ないんかな?  近いところは……三階なら図工室……二階なら四―二教室……」  そういう考えになるのは必然とはいえる。だけど、それはすなわち……。 「待って。さっき教室に入ってきた化け物のこともよくわかっていないのに、ここから出るのは……危険だと思う」 「せやろか? バケモンのことなんて元からわかるはずもないやん。  それにそのバケモンを対処するために、これがあるんとちゃうん?」  そう言い自身の右手首にまだ巻き付けられているリストバンドを指さす。 「逆に言えば、この教室の外に出れば化け物にはほぼ確実に出会うと考えてもいい。でも、対処できる力はある……。  実際に……和田と俺はこれで戦って倒した。  そもそもここでグズグズしてても、なにも変わらねえじゃねえか」 「……それは……そのとおりだとは思うけど……、いや……そのとおりだよね。  たぶん、ここでじっと待ってても、助けが来るより先にあたしたちがまいるだけ……。  食料を求めて……生き残るためには……必要なことか」  奈美の視線がウエストポーチに向けられる。さっき喜巳花がさっき放ったやつだった。それを手にして腰に巻いた。 「……ドレスアップ……」  あの輝きとともに奈美の体がローブに包まれた。 「……あたしと……響輝くんを先頭にして……進もう」  システムを使用した奈美を見て、響輝もリストバンドを操作。再びアーマーを装着しつつ笑う。 「まるでゲームだな」 「は?」  唐突にそんなことを言う脇響輝が、奈美に「だって」と続けて説明をおこなう。 「食料があるであろうポイントを目指して進んでいく。途中でエンカウントする化け物を倒しつつだ。 まんまRPGじゃないか。……NPCがいるかどうかはわからないけど……いたらマジでラッキー。  それを踏まえればさっきの化け物の登場は、さしずめチュートリアルか」 「……NPCにあたる人までいたら、その人はさぞかしお暇だろうね。あたしたちと出会うまで待っていたら、あたしなら退屈で死にそう。 いや、……赤色のサルというお友だちはいるのか……」  いろいろ言っているが、まるでゲームだ、という表現は一樹も納得できていた。 この地図、そしてパンマークの配置は、あからさまに、食料を求めて移動しろと言っているように思える。  これを一体だれが仕組んだのかは知らないが、これから一樹たちはその思惑通りに行動せざるを得ない。 それ以外の選択肢が用意されていないのだから。  自分の腰に巻かれたウエストポーチに視線を落とす。  これだって、仕組んだ者が一樹たちを移動させようと……いや、違う、化け物と戦わせようとしている。 そうしないと、生き残れない状況を作ってきている。  実際、生き残る術は……そこしかない。  一通り情報が集まりだしたことで、だんだん状況がわかってきた。  肝心な部分はなにひとつとしてわからないが、自分たちの置かれた状況はおおむね悟れる。  しかし、知れたところで、状況を打破できる手段など……。 「よっしゃ! 冒険に出発やで!」 「探検スタートだぜい!」 「「え? そんなノリで行くの!?」」 ※校内地図  あらすじにリンクあり https://estar.jp/pictures/25558014
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