第5章 仲間と摩訶不思議な学校

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第5章 仲間と摩訶不思議な学校

 次の拠点となりうる二階、多目的ホールへと到着。毛布や食料といった必要なものがひと通りそろっていることを確認できた。  こちらでも用意はかなりされているということがわかる。 「……この雰囲気だと、文音ちゃんがここのものに触れた形式はなさそうだよね……。食料はざっと見て三日分かな……」  奈美がダンボールの中身を確認しているなかで、一樹は端に折りたたまれていた毛布の一枚をつまんでいた。七枚、しっかりとそろっている。 「にしても……本当に用意がいいよね……。これを仕向けた人が僕たちを誘導しようとしているのは間違いないよね」  と、言って自身の失言に気づく。慌てて自身の口に手を当てる。 「ごめん、……別にあおるつもりは」 「別にそんな気をはりつめないでよ。好きに思ったことを言えばいいんだから」  奈美は明るい笑みを浮かべて一樹にフォローを入れてくれる。 「ここっていい感じの机ないな。彫りごたえのある机ぜんぜんないやん」  そう言って、所どころ置いてある白くツルツルとした表面の机のひとつに彫刻刀を当てている喜巳花。 「君は思ったこと、素直に言い過ぎかな」  その彫刻刀を横からかっさらいつつ頭をポカンと殴る奈美の姿が見受けられた。  ここの多目的ホールに机はさほど用意されていない。床は他の教室と違いカーペットみたいなものが敷かれている。  入り口に上靴を置いておく場所があり、靴下で入る設計になっている。  うるおぼえだが、となりも多目的ホールで、そっちは机が結構ならんでいて視聴覚室と似通った雰囲気のホールだったと思う。 「うん、ここならまだ図工室よりはゆっくりと寝れそうだね~」  じゅうたんの上で寝転がる綺星。  別段、ふわふわしているカーペットではない。やっぱり固いのには変わらないが、床にじかで寝るよりは幾段ましか。  まず、床の温度が段違いなのは高評価になるな。  奈美もしゃがみ込み、カーペットを手でそっとなでる。 「でも、これじゃあクラッカーをポロポロこぼすのはまずいかな。掃除も大変だし……。ってことで、ここでのお菓子は禁止ってことで」 「ふぇっ!?」  寝転がっていた体の上半身を起こす綺星。もう、顔が「信じらんない!!」って言っている。  その綺星の反応に満足したのか奈美はケラケラ笑って見せた。 「冗談だよ。でも、気を付けてよね。掃除が大変だから」 「ご丁寧に掃除機も置かれていますよ。バッチリですね」  壁に立てかけられた掃除機を指さして言うライト。そのまま近づきコンセントにプラグを差し込む。スイッチが入れられると、大きな音が鳴り始めた。 「うん、ちゃんと動きます」  確認を終えると、元合った位置に掃除機は戻された。  その日の夕方の食事も終わるころだった。  響輝がシーチキン缶詰めの残り一口を食べきり、口を軽く手で拭う。そして、その空の缶詰をダンボールに放り入れると立ち上がり奈美に近づいた。 「さて、約束だからな。明日からは俺の意見を尊重してもらうからな」  響輝の意見とは、脱出の手立てを探るため学校を探索するということだ。  今日までは奈美の意見が尊重され、図工室の中でおとなしく待つということだったが、結果は……こうだ。 「……わかっている。実際、待ったところでなにか変わったことはなかったしね。いいよ、で、具体的にどうしたいの?」 「まずは、一階に降りて昇降口に行くことだな。なんなく出られるかもしれないし、もし無理でも、なにかしら得られることはあるかもしれない」  響輝の提案に奈美はしっかりとうなずく。 「うん。打倒な話だよね。……あたしとしては、やっぱり無理に自分から動こうとせず、助けを待つ方がいいとは思うんだけど……」  奈美はやはり響輝の策に対して完全には乗り気ではないよう。少し小声でうつむきつつそんなことをつぶやく。 「だったら、お前はここに居てたらいいだろう。俺ひとりで行ってくるからよ」  響輝は自信たっぷりに胸をたたいて見せる。しかし、奈美の表情は変わらないまま、ゆっくりと響輝の顔を見上げた。 「あたしが心配しているのって、そこだけじゃないんだよね……。響輝くん、実際に昇降口に行って……もし、開いていたとするよ。じゃぁ、どうする?」  そんなありきたりに思える質問。響輝も同じように思ったのか最初、驚きの声を上げた。 「へぇ? 決まってるだろう。みんなを呼んで、こっから逃げるんだよ」 「逃げる? なんで? 逃げた後はどうするの?」  奈美はいつになく声のトーンを低くしている。 「あまりにバカげた話だったから、忘れかけているのかもしれないけど、もう一度思い出してよ。あの映像を……。  人類は滅亡しました。未知の生物によって追い込まれましたって。わけのわからない話ではあるけど、未知の生物ってのは……意味わかるんじゃない?」  ……未知、それは……一樹たちが化け物と扱っているあれ。 「これをどこまで信じるかにもよりけど……、もし昇降口が開いていて脱出可能な場所だとするなら、同時に……化け物の侵入口も……そこになったりするんじゃないかな?」 「……そういう話か……」  奈美の話を聞いて一樹は思わずうなっていた。  いままで、考えたこともなかったけど、あの廊下で出くわしていた化け物は一体どこからやってきたのか……。   教室の中からわいて出てきた? そんな話よりは、昇降口から侵入してくるというのうが、よっぽど現実味がある。  ……それを考えれば……外に出るというのは……それはそれで危険なのか?  それはすなわち、化け物は……外にたくさんいるってことになる。
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