連れてって

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あの何時も威張り腐っている神に今回だけは懇願して時間を止めて欲しいと言おうと思っていた。これは俺の仕事の流儀に反するが彼女を本当に好きになってしまったんだ。  彼女のことを知ったのはいい場所ではなかった。神奈川県の山と川に挟まれた壮大な立地にある大きな大学病院で出会ったのだ。病院が悪い場所という訳ではなくて、彼女がいかにも患者さんだと分かったからだ。彼女はいつも待合室で小説を読んでいた。俺はパッと見た時から彼女に釘付けになる。華奢な身体つきで肌の色が白く長いまつ毛の彼女はモロ俺のタイプだった。初めて会った時に俺は心臓が矢で打たれたようにフリーズした。是非ともお近づきになりたくて俺は月に数回病院に通う彼女の周りをウロウロした。付き合って欲しいなんておこがましい気持ちではない。せめて友達になりたいと思ったからだ。  彼女とは半年ほど経ってから親しくなった。きっかけは待合室で俺が話しかけてからだった。「いつも会いますね」と言ったら、「ええ。何処か悪いんですか?」と眉を八の字に下げてキュンとする顔をしてこちらを見た。俺の存在に気付いてくれていたことに胸が高鳴る。 「肝臓です」  俺が適当に答えると「大変ですね。私は腎臓なんですよ」と彼女はますます眉を下げた。 「透析に通って来てるんです。病状が落ち着いたら専門のクリニックに行けるんですが。今はまだ透析を始めたばかりで初心者なんですよ」  ああ、そうだったのか。だからワンピースの袖口に包帯がチラチラ見えるんだ。この若さで腎臓が悪いのは可哀想だ。
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