連れてって

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「そうなんですか。あっ、俺もここに定期的に来ているんですよ」 「若くみえますが大変ですね」 「ああ、そうですか。もう22歳ですよ」 「あっ、同じです」  偶然だ。俺が22歳だというのは嘘だが見かけはそれくらいだろうと出鱈目に言ったのだ。 「帰りまで待ってるんで、もし良かったらお茶でもどうですか?」  この病院には1階にカフェがある。そこのコーヒーは高いが絶品だ。 「3時間くらい掛かっちゃいますけど」 「あ、俺もそれくらいです」  本当は受診なんか無いのだが、嘘もついていい嘘があると思っている。 「じゃあ、どうしましょう?」 「3時間後に下のカフェにいますよ」  俺は口の筋肉をあげてニッコリと笑った。 「もし、遅くなっちゃたら悪いのでメールアドレスを教えておきます。あっ、私、由衣っていいます」 「俺もメールアドレスを教えます。秋生っていいます」  咄嗟に浮かんだ名前を言った。本名は無い。神さまは名前をつけてくれなかった。いつも死神と呼ぶだけだ。  それを聞いた時はまさかと思った。こんな幸せの絶頂の時に「由衣ちゃんの命を取るんだぞ」だなんて神さまはとんでもないことを言う。 「秋生さん、どうかしましたか?」  由衣ちゃんも白い頬を緩ませて目を細める。俺はその表情を見て苦しくなる。無理して笑顔を作っていたら鼻の奥がツンと痛くなった。そうなのか。俺はもう直ぐこの由衣ちゃんの命を奪わなければいけない仕事を担っているのか。病院の白い壁を見ながらこれは宿命なのかと悔しく思う。
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