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「はい」
小さな袋に入っている小粒のチョコレートだった。彼女は自分が取る前に俺の方へつき出した。
「あ、い、いただきます」
一粒取り出した俺は、そのまま口に放り込んだ。チョコレートが口の中で溶ける、このまま無言で過ごす訳にはいかない。
「あ、あの……お名前は?」
「え?」
静まりかえった公園に彼女の驚いた声が響いた。いきなりする話ではなかったのか、彼女はお嬢様なのだ、違う話題、彼女が興味を持つような話題をみつけなければ、言葉を選び、知的に振る舞うのだと、俺は辺りを見回した。
「あ、つ、月、今日の月が、綺麗ですね」
「え?」
彼女は驚いたように、一度目を見開いた、やはり俺のような人間が持つ話題の引き出しでは、彼女を楽しませることは無理なのだ。
しかし彼女は俺の焦る表情を見て微笑んだ。
「おかしい人ね、本当に。真湖、元浦真湖よ、あなたは?」
「あ、阿部川尚之、です」
俺は差し出されたチョコレートをもうひとつ取り出す。
「尚之さんか……いい名前ね」
彼女は自分で買ったのに、ひとつも食べていない、ベンチにチョコレートを置くと池のほとりまで歩き、転落防止の柵に手をかける。
「尚之さん……私でいいの?」
いい、と、言うのはどういう意味なのだろうか、そのまま受け取ってもいいのだろうか……
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