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塒の事件
メリーはその後、行きつけのネット喫茶に戻った。
とはいえここはすでに営業しておらず、放置されたパソコンは埃をかぶり、部屋の隅では蜘蛛の巣があちこちにはびこっている。妖怪が身を隠すには、これ以上ない好物件だ。
彼女はドアに手を伸ばすが、途中でその手を止めた。
「ドアノブがきれいになってる。管理会社でも来たのかな?」
メリーの顔には不安が浮かんだ。このご時世、妖怪の住める場所は意外にも少ない。確かに持ち主不明の民家などは増えてこそいるが、そこにはたいていの場合先客がいる。
ドアが開くと、彼女は大きく目を開き、やがて口元に手を当てていた。
何と廃墟の中の埃は残らず拭き取られ、蜘蛛の巣まで姿を消している。普段から使っているテーブルの上には、愛らしいクッションと共に、机の上には花瓶が置かれ、バラが1輪添えられている。
メリーは体をぶるぶると震わせていた。自分のテリトリーを勝手にいじられることは妖怪にとってこの上ない侮辱だ。
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