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優美な形の良い唇が動きます。
「さぁ、こちらに座って。他の方もすぐにいらっしゃいますわ」
「は、はい」
勧められるままにソファに座ります。濃いワインレッド色のベルベッドのソファです。テーブルの上には綺麗なティーポットとカップ、お菓子の乗ったアフタヌーンティーセットが置かれていました。
マリーアントワネット様を目の前にしては自然と背筋をピンと伸ばします。
「私はアルル。アルルちゃんと気軽に呼んでくださって結構ですわ」
「アルル、さん。はじ、はじめまひて、私のペンネームはコムボッコルで、す」
なんで噛んでしまうのでしょう。本当はコロボックルと言おうとしたのに。私の好きな妖精からとった名前なのに。顔が真っ赤になります。
「コム? 変わったお名前ですのね。コムちゃんとお呼びしますね。よろしくね」
「よ、よろしくお願いしますぅ」
もう何と呼ばれようと構いません。
「後の二人はもう少ししたら来ますわ」
「あ、全員で四人なんですね」
いまさらながら私は誰が来るのか知らないことに気が付きました。ネットで意見交換会に参加しますと勢いで言ってしまったものですから。そうこうしている間にガラガラと扉が開きます。
「ヘイ、ヨー!」
「ごっめーん、遅れちゃった」
お二人同時に入ってきました。ところがその姿に、私は目をぱちくりとさせます。
一人は着ぐるみでした。白と黒のパンダの着ぐるみです。体型もお腹がポッコリ出ていて、かなり忠実に出来た着ぐるみでした。
もう一人は、ぶかぶかした中華風の服を着ています。それだけではなく、顔に包帯を巻いていて眉間のあたりにお札を貼っていました。謎なお姿です。
「あら、懐かしいこと。ロキさんはキョンシーですか」
「アルルー! 今回のロキはキョンシーあるよー」
両手を地面に水平に上げてロキさんはぴょんぴょん跳ねました。
「あのー、キョンシーって?」
私は思わず聞いてしまいます。パンダの顔がずいっと近づいてきました。
「キョンシー知らないのかよ。しかも新顔じゃん! 誰?」
「私が招待したコムちゃんですの。構いませんわよね」
アルルさんが扇をたたんでから言います。どうやら意見交換会の主催者はアルルさんのようです。
「アルルの招待なら間違いねぇな! 俺はタツキ、気軽にタッツーって呼んでくれ」
「私はロキ。よろしくあるぅ」
タッツーさんとロキさんの手を順番に握りました。
「あの、ところで何で仮面じゃなくて、着ぐるみだったりキョンシーだったりするんですか?」
私は思わず聞いてしまいました。ただの仮面をつけている私の方が浮いています。三人はいっせいに私の顔を注目しました。何言っているんだって表情です。
「聞いてないある? 私たちが何でこんな格好をしているのか」
ロキさんが私の隣に座って言います。
「それはもちろん! これから撮影するからさ!」
パンダのタッツーさんがハンディカメラをカバンの中から取り出しました。
「これは顔がバレないようにするためですのよ」
顔どころか全身仮装しているアルルさんがフフフと笑いました。いたずらが成功したような表情です。
「さ、撮影!?」
「動画をネット配信するためある」
なぜ小説の意見交換会をネット配信するのでしょうか。思い当たることと言えば、動画を配信して読者を増やすことが目的でしょうか。
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