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雪の降る街を一人で歩いていた。
薄く積もってはいるが、大幅に遅延するほどまでにはいかないだろう⋯⋯多分。
わたくしの心は現在、粉砂糖のようなスウィートモードである。
それ当然、これから、麗しの兄様とでぇとなのだ!
身だしなみを整え、衣服のシワもぴっちりと伸ばしてきた。
「気づかれないようなところこそ、大切なのですわ!」
いつ兄様がやって来てもいいようにと、気は緩めない。
と、そこへ。
「お嬢さん、一人?」
「ふぇ?」
突然、声をかけられた。
「どなたですか?」
知らない方たち。三人の殿方が、近くによってくる。
「あ、あの⋯⋯」
「新宿は初めて?お上品なお召し物だね」
初めてどころか何十年と通ってきています!東海道様や青梅様なんかもご案内致しました実績がありますわ!
などとは言えず、答えに詰まる。
「俺たちが案内してやるよ」
「い、いえ、遠慮しますわ」
「いいのいいのー、ほらおいで」
相手は強引に手を取ってくる。
ど、どうしましょう。
「お嬢さん、胸大きいねー。何歳?」
100歳まであと少し、とは言えない。
「あ、あう⋯⋯その、離してくださいまし」
やんわりと抵抗するも、三人相手ではどうにもならない。
魔法でぶっ飛ばそうにも生身の一般人には命の危機が訪れてしまう。
「いいじゃん、ちょっとだけだからさ」
「で、でも、わたくし⋯⋯!」
「総武から離れろ!」
場を制すような強い声。
「あんた誰?邪魔しないでく」
「兄様!」
「うおっ、この、逃げ⋯⋯!」
わたくしは無意識のうちに、殿方を吹き飛ばす勢いで兄様に飛びついた。
腕に抱きつき、兄様がいれば百人力!というふうにどやってみせる。わたくしが。
その様子を見た殿方三人衆は顔を見合わせると、舌打ちをして駆け足で去る。
さすが兄様!そこにいるだけで威厳が溢れ出て止まないのですね!と心の中からハートが溢れ出す。
今のわたくしには、それが勘違いかどうかなどどうでもいいことだった。
「大丈夫か、総武?」
「ええ!総武は何ともありません!」
「そうか、よかった」
どうなるかと思いましたが、こうして兄様に会えましたから、結果オーライですわ!
「さあ、兄様。行きましょう」
「そうだな。じゃあとりあえず⋯⋯」
いつの間にか雪は止んでいたので、傘を閉じる。
傘がない分、手を繋いで歩くことが出来た。
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