第五章

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第五章

天使は悩みました。 そして神様に伝えました。 「神様、ボクの分身を作って下さい、そうすればどちらの国も救うことができます」 願いを聞き入れ、神様は天使の分身を作り出しました。 しかしそれは、国を救うことには繋がらなかったのです。 「あれ……」 穂希は思わず声を上げた。 いつも通る道が工事中で、通行止めとなっている。 ……どうしたの? 「ちょっとね、帰り道がふさがれてるの」 ため息混じりに穂希は言う。 憂鬱な気分だった。ここから回り道をしなければ、帰れないのだ。時間もかかる上に、柄の悪い人間も時折見かける。 地元の人でもあまり近づかないのだ。 「お母さんに連絡しておこう」 帰りが遅くなると母は心配する。そう思い穂希はスマホを鞄から出した。 『ゴメン、ちょっと帰るのが遅くなりそう、家に着くのは六時半になるから』 メールを送信し、穂希は足を動かした。 街灯が灯り、夕日から漆黒の色に空は変わる。 静かな住宅街を穂希は進む。今日の夕飯はビーフシチューが出る。それまでには帰りたい。 ……疲れない? 「大丈夫よ」 エリュシオンの気遣いに、穂希は励まされた。 一人だが目に見えない存在がいるだけでも、心強く感じられる。 住宅街を抜けると、広い公園に出た。そこから騒がしい声がして、穂希は思わず足を止める。 公園には柄の悪い人々がたむろしていた。 ……何か人の声がするね。 「通りにくいな……」 ……どうして 「怖い人がいるからよ」 穂希は声を抑えて伝えた。 公園を避けて通ることはできない。なので素早く通り抜ける必要がある。 幸いにも集まっている人間は穂希に背を向けている。足音を立てなければ、無事に通り抜けられるはず。 穂希は慎重に進んだ。不良の真横を通る形で、彼等は話に夢中で気付かない。 緊張のため、口が渇き、心臓が高鳴る。 (このまま通れますように) 公園の入り口まで来た。もう少しで抜けられる。 ……大丈夫? 「何とか」 穂希は小さな声で言った。 だが、穂希の思う通りに事は進まなかった。小石によって足を滑らせ思いっきり転倒したからだ。 「いったぁ……」 穂希は立ち上がろうとすると、痛みが足に走る。 見ると膝はすり剥き、血が流れていた。 「おい」 追い討ちをかけるかのように、背後からドスの聞いた声がした。 声からして、柄の悪い人間だということが直感で分かる。 穂希は恐ろしくなり、傷の手当てをしないまま、全速力で走り出した。 公園の曲がり角に入り、真っ直ぐの道を進み、T路地を左に曲がる。 背後からは足音は無いが、一秒でも早く逃れたかった。 穂希の横から閃光が近づき、それが車だと認識した瞬間に穂希の意識は飛んだ。
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