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どこまでも続く銀世界。王狼の踏みしめる雪の音、息遣い。凍えるほどの寒さの中、背中越しに感じる黒威の体温。耳元で囁く低い声。それ以外は何もないが、それだけで充分だと思える。
「なあ、この状態でキスできると思うか?」
そう言って後ろを振り向くと、顎に手を添えられて、唇に柔らかいものが押し付けられた。が、すぐに唇が離れる。顔もはっきりとは見れなかった。
「……これ以上は俺の理性が持たない」
しかし耳に掛かった黒威の熱い息で、今の彼の気持ちが伝わってきて、鼓動が早まっていく。
「まあ……とりあえず我が家に着いたら、温かい風呂にでも入りますか」
俺の台詞に、黒威は「ああ、そうだな」とふっと息を吐くように笑った。
あの寒い日の夜、風呂に入りたがった俺を床入りすることを了承していると黒威は勘違いした。
もしあの時のことを思い出しているなら、これは一応俺なりに誘いを掛けているつもりだったのだけど、伝わってはいないだろうな、と思う。
それなら、今夜だけは素直に、なってみるのも悪くない。そんな風に思える、温かい夜だった。
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