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「詩織・・どうして、眼のこと僕に言わなかったんだ!?」
僕のその問いに詩織が肩を震わせた。
「・・私、突然、視力が無くなって・・。だからスタンフォード大学に出向する様な貴方の足手纏いになりたくなかった・・。私は盲目になっちゃったから・・」
僕は大きく首を振った。
「僕は、この病気の専門家だぞ。僕の研究は君みたいな人を治療する為だって知っているよね?」
「知ってる。でも貴方の研究の難しさも知っているし、貴方の研究が暗礁に乗り上げていたのも聞いていたから・・。だから私の眼は治らないと思って他の人が好きになったって言って貴方と別れたの」
僕の右肩に顔を埋める彼女が泣いているのが分かる。
「馬鹿! 僕はちゃんと研究を成功させた。iPS細胞を使って新しい網膜を作って移植するんだ。もうアメリカでは五人が臨床試験を受けていて、全員が完全な視力を取り戻した。君も絶対に治してみせる!」
僕は詩織から身体を離し、左手で朝日を指差した。
「詩織。君は昔みたいにあの朝日を自分の眼で見れるんだ。僕の開発したiPS網膜で・・」
「ほんと・・?」
「本当さ。そして君はまた脳外科医に戻れる筈だ!」
詩織は驚いた様に僕を見つめている。
「だからもう一度言う。僕は君の眼を必ず治す。そしたら僕と結婚してくれるかい?」
詩織が満面の笑みで大きく頷いた。
「はい、達也。嬉しい・・。ありがとう」
僕はもう一度、詩織を力一杯抱きしめた。
FIN
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