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僕は着の身着のままで大学を飛び出すとサンフランシスコ空港に向かった。そしてサンフランシスコ空港から関西空港行きのフライトに飛び乗った。そのフライトは少し遅れて、関西空港への到着は午後十時を廻った所だった。
もう、九州行きのフライトが無い時間だったが、僕はレンタカーを借りて、九州まで走る決断をした。
早く詩織に逢いたかったのだ。
約六百キロ走り詩織の自宅前に到着したのは、まだ暗い午前六時過ぎだった。
僕が彼女の自宅のインターフォンを鳴らすと中から詩織のお母さんが出て来た。
「高山先生。ご無沙汰しております」
彼女は僕に大きく頭を下げた。
「お母さん。詩織さんに会わせて頂けますか?」
「詩織は朝の散歩に行きました。もう殆ど眼は見えないので危ないと言っているのですが、橋の上で先生と見た朝日を見たいからって杖を突いて出掛けているんです。もう詩織の眼は明るさしか感じられないのに・・。詩織はまだ先生のことを愛していると思います」
僕は自分の眼から涙が溢れて来るのを感じていた。そしてお母さんに頭を下げると、踵を返してまだ暗い街中を走った。
確かに歩道には黄色の視覚障害者誘導用ブロックが橋まで続いていて、殆ど視力が無い彼女でも歩くことは出来そうだが、こんな暗い中を歩くなんて・・。
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