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九州の地方都市に在る『安曇大学病院』はこの地方の資産家が大規模な投資をしており日本でも屈指の高度医療技術を誇っていた。
そこで働く僕の専門は眼科、特に『網膜色素変性症』を専門としていて、未だ二八歳の若輩ながらこの分野では日本でもトップの実力だと自負していた。
僕の日課は早朝ランニングだ。
九州の日の出は遅く十月のこの時期でも朝の六時に走り始める時には、まだ夜の帳が降りている。走っているうちに徐々に明るくなり、川を渡る橋の上で東側の山の頂から太陽が顔を覗かせる。
それは走った疲労を忘れてしまう程、素晴らし眺めだった。
そして最近、僕はもう一つ楽しみなことがあった。毎日、橋の中央で会う女性。彼女はすれ違う時に僕に笑顔で会釈してくれる。
僕はその笑顔に恋をしてしまったのだ。
ところがある日から彼女は突然現れなくなった。そして数週間経っても彼女と会えなかった僕はすっかり落ち込んでしまっていた。
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