17 伝えた真実

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17 伝えた真実

「学校さぼったの? あとで親に連絡いくんじゃない? あ、赤谷は謹慎中だったか。アイス食べる?」  一番学校に行っていないはずの美咲が、笑いながら三人を見た。そして、まるで自分の家のように、碧理の前に座布団を並べていく。  すると、美咲は当たり前のように真ん中に陣取った。その隣に翠子が座り、翠子の隣には慎吾。必然的に美咲の反対隣は蒼太になった。  慎吾や翠子、蒼太が緊張している中、美咲だけが呑気にアイスを配る。どうやら大量に買っていたようだ。 「これ美味しいからおススメなの。バニラとチョコレートと苺味。あ、翠子さんとは会った記憶がないから初めましてだよね? 私、白川美咲よろしく」 「高田翠子と申します。よろしくお願いします。あと、アイスもありがとうございます」  翠子が行儀よく頭を下げる。 「気にせず食べてよ。美味しいよ、その苺味」  自由奔放な美咲がいてくれて良かったと碧理は安堵した。  美咲がいなかったら、部屋の中は重苦しい雰囲気だっただろう。更にギスギスしていたかも知れない。  翠子と慎吾が美咲に促されアイスを口にする。そんな中、蒼太だけが碧理を見つめたまま口を開いた。 「……怪我は大丈夫? 倒れた時、凄い音がしたんだよ。大騒ぎになって、浜辺が大泣きしてたけど連絡した?」  蒼太の説明を受けて、碧理は困ったような表情を浮かべた。  瑠衣は昔から、少しだけ大げさに物事を捕える傾向がある。  本人から連絡は来ていたが「大丈夫」だと一言伝えただけ。それ以降は返事を返していなかった。  大量にメッセージは届いていたが、クラス中に噂が回ることが目に見えている。それも真実ではない尾ひれがついたものが。  それを予想して、碧理は自分が学校へ行くまでは、体調不良を理由に連絡を絶つことに決めたのだ。 「うん、一回だけ。落ち着いたらゆっくり連絡するつもり」 「そう。そうしてやって。刹那も困っていたから」  蒼太の友達の筧刹那は、彼女である瑠衣の対応に苦慮しているようだ。その姿も想像出来て、碧理は苦笑する。 「それで、聞きたいことがあるんだ。……これなんだけど」  蒼太が鞄から出して来たのは赤いノート。あの文章が書かれている碧理のノートだ。 「あ、これ……」  碧理は思い出す。  蒼太と公園で会った時に忘れてしまったことを。 「中……見たんだ?」 「見た。やっぱり、花木が関わっていたんだね。ここにいる三人同様に僕も知りたい。あの三日間になにがあったのかを。教えて欲しい」  真剣な表情の蒼太に、碧理は困ってしまう。  言えないのは、全て蒼太のためだと喉元まで出かかった。  だけど、皆が集まってしまった。  碧理も覚悟を決める時なのかも知れない。でも、それを伝えなくても良いのならそうしたい。  碧理は流れに任せることにした。  言わなくても良いのなら、このままにしておこうと。全員が傷つかずに済むのだからと。 「……ノートを見たならわかると思うけど、ここにいる五人で『紺碧の洞窟』を目指したの。皆、叶えたい願いがあったから。森里君以外はね。森里君は、私達のことが心配で付いて来てくれた」  碧理は語り出す。  口にしたくない真実を言うために。  碧理が蒼太を見ると真剣に話を聞いている。  その姿を見ていると手が震えて、思わず布団を握り締めた。 「ちょっと待って。私にもそのノートを見せて」  美咲がアイスを置くと、蒼太からノートを渡される。  あの言葉が書いてあるページをじっと見つめると、碧理を見た。 「……うーん。これだけ見てもやっぱり思い出せない。これを書いたのは碧理なの?」 「ううん。洞窟の管理人さん。……私もいつ書いたのか知らないの。管理人さんから教えて貰ったのは、願いが叶うと記憶が一つ失うってことだけ」  そう。願いは叶った。  でも、碧理だけ記憶は残ってしまった。なぜなのか、それは碧理自身もわからない。 「……じゃあ、私達四人が記憶を失ったのは願いを叶えたから?」  美咲の問いに、碧理は強張った顔で頷いた。  ここで嘘を付いても皆はわからない。  大切な人を守る嘘なら許されるのではないかと。  でも、頭とは反対に心はそれを拒否する。すると、自然と言葉になった。 「うん、叶ったの。でもね……願いは、それぞれが思っていたのと違う願いになった。アクシデントが起きて」 「アクシデント?」  四人が碧理を見つめる。  碧理の視線の先には蒼太がいた。  本当にここで真実を伝えてしまって良いのか。それは酷く残酷なことではないのかと、碧理は葛藤する。  知らなくても良い真実があるのではないかと。でも、隠すことは出来なかった。 「あの時、どうしようもなくて、死んだの……死んでしまったの」  辛くて言いたくなくて、泣いてしまった碧理の言葉に四人が衝撃を受けた。
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