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20 八月九日、守り人
「あの。僕達、お祭りで観光課の人達から紹介されたのですが、一泊泊めて貰えることは出来ますか?」
「観光課……。ああ、なるほどね。そのパンフレットね。あ、はいはい。大丈夫よ、上がって。どうぞ」
女性は蒼太からパンフレットを渡されると、合点がいったように頷いた。
そして、スリッパを人数分出すと歩き出す。
「付いて来て。部屋へは後で案内するわね。まずはお茶でも出すわ。ご飯は食べてきた?」
気軽に話しかける女性は、民泊をやっていて接客に慣れているのか、気さくで話しやすい。
「はい。お祭りの屋台で」
「ああ。今日、花火か。だからこんなにも賑やかだったのね」
女性の言葉に、碧理は違和感を覚えた。
花火大会の場所は、ここから目と鼻の先。今日の花火大会を忘れているかのような言葉が、少し気になった。
「こっちよ。あ、適当に座って。はい。ここにお名前書いてね」
そう言って案内されたのは、十畳ほどの畳の部屋。その奥にはキッチンが見えた。和洋折衷でモダンな造りは、リフォームされているらしい。
掘りごたつ式のテーブルに着くと、代表して蒼太がノートに全員分の名前を書いていく。
「花火見物に来てホテル取り忘れたの? それとも急に行きたくなったとか? どうぞ、レモン水よ」
女性は、涼し気なガラスのコップを五人の前に置いていく。そして、栗羊羹も出してくれた。
「あ、えっと。皆で小旅行してたんですけど、宿を予約するのを忘れていて……今に至ります。実は花火大会に来るのが目的では無かったので」
美咲が簡単に事情を話す。言いたくないことは上手く誤魔化し、勿論、親に内緒で来ていることは秘密だ。
「あら。それは大変だったわね。……目的は花火ではなくて『紺碧の洞窟』でしょ?」
女性からその言葉が出てくるとは思わず、五人は息をのむ。
そんな素直な五人の反応を、女性は面白そうに見ている。
「なぜわかったのかって顔をしているわね。簡単よ、この宿にやって来るのは、洞窟を目指す人だけだから。観光課はわかっていて回してくるのよ」
「……どうして、この宿に?」
警戒しながら碧理が聞くと、女性は笑った。
「簡単よ。私も昔、洞窟へ行ったことがあるの。条件あったでしょ? 管理人へ会うことって。私が『紺碧の洞窟』の守り人……榊知世です」
まさか、ここへ来て、こんなにもすんなりと管理人に会えるとは思わず、五人は言葉を失った。
都市伝説だと、ただの噂だと思っていた話は、突然、現実味を帯びてくる。
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