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召喚してました
「お初に御目にかかります。僕の名前は、紺こん。貴方の執事です。これから末長く、よろしくどうぞ」
サラサラとした銀髪、長い睫毛、切れ長の二重瞼、通った鼻筋、薄く開いた唇。
薄いセーターに、ピッチリとしたGパン。細身の身体だから、よく似合っている。
だが、私には、疑問がある。
「……あなた、誰?」
突如として現れた彼。歳は私と同じくらいだろうか。
私は自室で、何気なく、本当に、物思いにふけながら、天井に両手を伸ばした時だった。
両手が突如として光り、驚きつつ、目を閉じて、身を縮めていた。
両手から何か出た気がしたな、と、薄目を開けた先に、テレポートしてきました、みたいな顔した紺がいた。
血の気が音をたてて下がるのが分り、私は叫んだ。
「おおお、おかあさーん! なんか知らない人が! 知らない人が現れた!!」
これが、高二の夏である。
この世界では、こういう能力を持った者が、いる。
というのも、私には前世の記憶があり、前世では都内在住の小学生だったはずなのだ。
どうにも、その後の人生が思い出せない辺り、もしかしたら私は小学五年生で生涯を終えたのかもしれない。
思い出そうにも、そこから先は、今の私……三星みつぼし 春子はるこの今までの、覚えている限りの記憶に繋がってしまう。
この能力のことは、聞いていたし、恐らく能力らしき人を連れて歩く姿を、街でも見かけたことがある。
別に特別なことではないが、金持ちに多い傾向。というのが、私の偏見だ。
自らの能力、という名の、全くの別人を召喚するのだ。そう、あの召喚。モンスターを召喚するが如く、人を召喚するのだ。
能力者、この場合、私に当てはまるのだが、能力者は、召喚した人を、意のままに操ることが出来る。
つまり、下僕にでもなんにでも出来るのだ。そう、聞いている。
この世界のほとんどの能力者は、召喚した人物を〔執事〕と呼ぶ。
身の回りの世話がやらせる者が多いからだ。
つまり、私が、自分で専用の執事を、召喚することが出来る。自分の能力なので、執事は私の全てを把握でき、意思のままに、動く。
そう、私の執事は紺なのだ! それなら、何でもしてくれるわ!
その、はずだった。
「あのさ、何してるの、紺」
「んー、僕? 今は漫画読んでいるよ」
「それ、私のだよね? 勝手に読まないで!」
「どうして? 主の趣味を知るのも、僕の役目だ」
あれから二ヶ月経っても、この通り、ゴロゴロして、全く言うことを効かない。
私を見ては、ただ、ニコニコしているだけだ。
執事を召喚出来ても、扱うには、やはり、力がいるのか、今の私は全く扱えない。
どんなに命令しようが、紺はニコニコして、僕の仕事はそれじゃない、と、笑う。
私の事は主と認めているみたいだし、好意も感じる。それじゃ、何故動かないの!
……今までの学校を、直ぐに、辞めた。
そういう、能力を持った、専門の学校が存在するらしい。そこで学ばなければ、ずっとこのままだろう。
まさに、宝の持ち腐れ。
どんだけ使えない執事だよ。
「ねえ、明日から学校行くんだよ、私と!」
「うん、分かっているよ。僕も何かするんだろ? 大丈夫、春子は何だって出来るし、僕が守ってあげる」
何故呼び捨て?
舐めてる、この執事は、確実に私を下にみている!
「春子? どうしたの、どこか不安? ……いや、怒ってる? 何かあったの?」
どこか焦ったように、私の元まで来る。そして、顔を覗き込んでくる。
「……何でもない」
「春子? 何に怒っているの? 誰かに、何かされた?」
こいつは、いつもそうだ。
私の感情には、とても敏感だ。どんなに隠しても、直ぐにバレてしまう。
それなのに、原因が自分とは、夢にも思わないらしい。
明日から、九月。
私は、紺を連れて、新しい学校。
どんな授業なのか、紺も何をするのか、全く想像つかない。どうなるんだろう。
両親も執事を召喚なんて出来ないから、知識は皆無だ。勉強して、この出来損ないを、使いこなしてやる!
怒りを沈めようと、別の事を考えていると、じーっと私の顔を見ている紺は「怒り収まったの? 大丈夫?」と、長い睫毛をパチパチさせて、微笑む。
「紺、近い、離れて」
「どうして? 僕は春子が近くにいると、安心する」
安心? こいつは馬鹿なのか?
距離は、先程よりも縮まって、互いの鼻がつきそう。紺が両手で私の肩を掴んでいる為、動けない。
いくら自分の能力といえど、歳の近い異性と、それも、こんな綺麗な男の人と、こんな距離まで近づくのだ。どこかソワソワ、ドキドキしてしまう。
そんな私の心情を、読み取った私の執事は。
「ん? 春子、トイレ行きたいの?」
「ち、違う! 離れて、変態!」
思いっきり突き飛ばすと、案外すんなりと離れた。不思議そうな顔をして。
こんな出来損ないの執事と、上手く生活していけるかしら。
友達、出来るかな?
これから、未知の学園生活が、始まる。
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